放課後のジントニック、美術室の魔法
だけど、本当に大人になって彼女を堂々と迎えに行けるようになるまで、まだ数年間の時間がかかる。その間に、結衣さんが他のどこの誰とも知らない大人の男に取られてしまうかもしれないという恐怖だけが、俺の胸をずっと、狂おしいほどに締め付けていた。
告白なんてできない。でも、離れたくもない。ただ、本当に大人になるその日まで、彼女の意識を俺だけに向けさせて、他の誰にも渡したくない。そんな必死な焦りだけを抱えて、俺は次の金曜日の夜、バーのカウンターで結衣さんを次のデートに誘い出した。
部活が珍しく休みになる、日曜日の昼間。場所は、駅から少し離れた場所にある中央水族館だった。
そうして迎えた、日曜日。
休日で賑わう水族館の館内は、外の残暑を忘れさせるほどひんやりしていて、どこか幻想的な青い光に満ちていた。
今日の結衣さんは、清楚な白い袖のないヒラヒラした服に、なんか透けてる薄いカーディガン見たいな上着を羽織っていた。髪は上の方だけを少し結んでm残りを肩に下ろしていて、水槽のガラス越しに揺らめく青い光が彼女の細い肩や横顔を照らすたびに、息を呑むほど綺麗で、俺はすっかり見惚れていた。
俺は『大学生のフリ』を必死に維持しながら、ただ彼女に楽しんでもらえるように、一生懸命に大人の男らしく振る舞うことしかできなかった。
――しかし、そんな俺の背伸びを、結衣さんは優しく、呆気なく壊してくれた。
デートも終わりに近づき、出口へと続く少し薄暗いスロープの帰り際だった。
休日が終わる名残惜しさと、水槽のゆらめきが消えかけた静寂の中で、結衣さんがふと足を止め、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。長いまつ毛の奥にある瞳が、館内の終わりの灯りを反射して、どこか熱を帯びているように潤んでいる。
「……あのね、航平くん」
結衣さんのただならぬ気迫に、俺の喉が完全に押し黙った。
「私、あの金曜日の夜、航平くんにやきもち妬いたって言ったでしょ?あの後、一週間ずっと、自分でも信じられないくらい頭の中が航平くんのことでいっぱいだったの」
結衣さんはほんの少しだけ耳の裏を赤くして、でも逃げるような視線を逸らすことはしなかった。バッグの紐を、彼女の細い指先が、ぎゅっと白くなるほど握りしめているのが見える。
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