放課後のジントニック、美術室の魔法

不真面目な大学生のフリをして、偉そうに高校生の本音を語り、挙げ句の果てに恋人面をして彼女の手を握っていた俺の正体に、彼女はとっくに気づいていたんだ。嘘つきのガキだと知られて、幻滅されて、だからもう会ってくれないし、連絡も無視されている。
大好きな人に拒絶されていく底なしの恐怖と焦燥感が、俺の頭をぐちゃぐちゃに掻き回していく。
その焦りは、俺の唯一の拠り所であるはずのサッカーにまで影を落とした。
小学校の頃から、どんなに体調が悪くても、どれだけ雨が降っても、部活の練習を一度だって不真面目にやったことなんてなかった。居残り練習だってサボったことはない。それが俺の、ひどくつまらない真面目な取り柄だったはずなのに。
翌日の放課後のグラウンド、俺の身体は信じられないほどに鈍かった。
パサーの意図を完璧に汲み取ってゴールネットを揺らすはずのシュートは、ミートする瞬間に結衣さんの冷たいメッセージ画面が脳裏をよぎり、大きくふかして防球ネットの遥か上へと消えていった。
ピピッ、と顧問の鋭いホイッスルが夕暮れのグラウンドに響く。
「藤代! さっきからトラップもコントロールもめちゃくちゃだぞ! やる気がないならもう上がれ!」
「……すみません」
汗を拭う気力すら湧かないまま、泥だらけのジャージの袖で額をグッと拭う。給水ボトルを片手に賑やかなベンチを離れ、体育館の影へと歩きながら、俺は自分の不甲斐なさに激しく唇を噛んだ。
『自分が信じて好きになった人を、自分が信じないでどうすんだよ』
脳裏の奥で、いつか学校の階段の踊り場で大輝にぶっきらぼうに言われたあの言葉が、グラウンドを吹き抜ける秋の涼しい風に混ざって、生々しく何度も何度もリフレインした。
あの時、大輝は俺に「正直に話せ」と言ってくれた。それなのに、俺は拒絶されるのが怖いあまり、ずっとその言葉から目を背けていた。
こんなふうに大好きな部活にすら身が入らなくなって、嘘がバレる恐怖に怯えてコソコソ逃げ回っている今の俺は、大輝の言う通り最高にダサい。
廊下ですれ違った夏海が、俺の見たこともないような覇気のない歩き方を見て、スクールバッグの紐をぎゅっと握り直して強い心配の目を向けてきたのを思い出す。
周りのみんなが、こんなにも俺のことを真面目に心配して、不器用な想いを抱えているのに。俺は、大好きな結衣さんにだけは、未だに最低な大嘘を突き通したまま逃げ回っている。
これ以上、大好きな結衣さんを騙したまま、コソコソ怯えて逃げ回るくらいなら軽蔑されて振られた方がマシだ。自分が信じて好きになった人を、自分が信じないでどうすんだ。
俺は震える手でスマホの画面を叩き、結衣さんへメッセージを送った。
『話したいことがあります。今日の夜、駅前の公園に来てくれませんか』
< 70 / 82 >

この作品をシェア

pagetop