放課後のジントニック、美術室の魔法
【待ってた人】
あの夜から、季節がいくつか過ぎた。
航平くんと離れるようになってから最初の金曜日。
私はいつものように、あのバーへ向かった。
店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
マスターは、いつもと変わらない声で私を迎えてくれた。
「こんばんは」
私はいつもの席に座って、いつものようにグラスを頼む。
何も変わらない。
店内に流れる音楽も、照明の明るさも、カウンターの向こうに立つマスターの姿も。
ただ一つだけ。
隣の席が空いていた。でも、私はそこを見ないようにした。
航平くんが来なくなった理由を、マスターに話すことはなかったし、話す必要もないと思った。
これは私と航平くんの間のことだから。そして、マスターも何も聞かなかった。そのことが、少しだけありがたかった。
私はいつものようにグラスを傾けた。隣の席が空いていることにも、少しずつ慣れていった。
今日は、晩秋の冷たい雨が降る日だった。
ドアが開くたびに、カランと繊細な鈴の音が響く。そのたびに、私は自分の心臓が小さく跳ね上がるのを止められなかった。入ってきた見知らぬサラリーマンの姿を見て、ホッとするような、胸がジリジリと焼けるような寂しさに襲われる。
「佐倉様、今夜は一段と冷えますね」
カウンターの向こうからマスターが差し出してくれた、温かいチェイサーのグラスを両手で包み込む。
思わず、隣の空席を見る。
そこには誰もいないのに、チャコールグレーのシャツを着て、黒縁メガネの奥から少し生意気に微笑む彼の幻影が、どうしても消えてくれない。
『今夜も、お疲れのようですね』
幻聴のような優しい声に、私はグラスを見つめたまま、そっと涙をこらえるように微笑んだ。
航平くんと離れるようになってから最初の金曜日。
私はいつものように、あのバーへ向かった。
店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
マスターは、いつもと変わらない声で私を迎えてくれた。
「こんばんは」
私はいつもの席に座って、いつものようにグラスを頼む。
何も変わらない。
店内に流れる音楽も、照明の明るさも、カウンターの向こうに立つマスターの姿も。
ただ一つだけ。
隣の席が空いていた。でも、私はそこを見ないようにした。
航平くんが来なくなった理由を、マスターに話すことはなかったし、話す必要もないと思った。
これは私と航平くんの間のことだから。そして、マスターも何も聞かなかった。そのことが、少しだけありがたかった。
私はいつものようにグラスを傾けた。隣の席が空いていることにも、少しずつ慣れていった。
今日は、晩秋の冷たい雨が降る日だった。
ドアが開くたびに、カランと繊細な鈴の音が響く。そのたびに、私は自分の心臓が小さく跳ね上がるのを止められなかった。入ってきた見知らぬサラリーマンの姿を見て、ホッとするような、胸がジリジリと焼けるような寂しさに襲われる。
「佐倉様、今夜は一段と冷えますね」
カウンターの向こうからマスターが差し出してくれた、温かいチェイサーのグラスを両手で包み込む。
思わず、隣の空席を見る。
そこには誰もいないのに、チャコールグレーのシャツを着て、黒縁メガネの奥から少し生意気に微笑む彼の幻影が、どうしても消えてくれない。
『今夜も、お疲れのようですね』
幻聴のような優しい声に、私はグラスを見つめたまま、そっと涙をこらえるように微笑んだ。