『ひとりの少女』
「広がる波紋」
「運命のひと」が存在すると言う人もいれば、そんなの居ないと言う人もいる。
実際にどちらなのかは神様でも無い限り、誰にも分からない。
だけど私は、それを信じている。いや、正確には、信じざるを得ない。
私は人を信じるのがとても苦手だ。
世界が一日だけ、白黒に見えたあの日から、人の裏を疑う様になった。
素直に人の言葉を聞けず、褒め言葉も素直に受け取れない。
だから、人を信じられないのならせめて、神様を信じたい。
宗教とかではなく、概念として。神様を信じている。
これが正しいか否かは分からないが、少なくとも、人と深く関わろうとして、私自身が再び潰れる可能性は極端に減らせる。
人間との接触を避けられるのは、嬉しいが、とても寂しい。
何故なら、それはつまり、事実上独りになるということだ。
独りになってしまえば、何でも自由にできる。
でも、いつでも独りぼっちなのだ。それは、悲しい。
人によっては平気かもしれないが、少なくとも私は平気じゃない。
独りは自由だが、同時に悲しくて寂しい。私はそう思う。
いつも通りのつまらないサイクルを経て、学校に行くために駅へ向かう。
緑が丘駅という、極々普通の駅だ。
いつもの場所に並んで、音楽を聴きながら、いつもの電車が来るのを待つ。
すると、イヤホン越しに、聞き覚えのある声がした。
「こんにちは」
ふと見上げると、先日の男子高校生。
「ああ、この間の………」
「うん。覚えててくれて嬉しい」
「いえ。印象的だったので」
印象的って言い方はあまり良くなかったか、などと思いながら、電車に乗って、彼の隣に立つ。
すると彼が、色々と聞いてきて、色々と話してきた。
話し方から何となく分かる。
彼は普段きっと、コミュニケーション能力が高くて、それこそ人気者に近しい存在なのだろう。
私とは正反対だ。
それでも、楽しい会話は楽しい。
思わず笑ってしまったり、堪え切れずに小さく吹き出してしまったりもした。
流れで連絡先を交換して、私は電車を降りる。
降り際、「またね」と言われたので、適当に「はい、また」と返す。
スマホの連絡先に増えた、ひとつの名前。
今思えば、私はきっとこの時点で何となく察していた。分かっていた。
―――沈黙していた水溜まりに雫が落ちて、波紋が広がっていることに。
