『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
それから三日後。
栞は荷物をまとめていた。
雅也との家を出る。
七年間暮らした部屋。
不思議なほど。
未練はなかった。
最後に自室へ入る。
窓辺には。
あの深紅のバラ。
「…………」
もう何日経っただろう。
それなのに。
まだ枯れていない。
栞はバラへ近づいた。
花瓶から抜く。
捨てようと思った。
律との始まりだった花。
嘘から始まった関係の証。
ゴミ箱の上まで持っていく。
手を離せばいい。
それだけ。
「…………」
できなかった。
「ほんと……馬鹿」
誰に言ったのか。
自分でも分からない。
栞はバラを胸元へ抱いた。
そのとき。
花瓶の下に。
何かがあることに気づいた。
一枚の紙。
「……何?」
引き出す。
古い写真だった。
栞の指が止まる。
そこに写っているのは。
若い頃の自分。
デザイン事務所で働いていた頃の栞だった。
まだ雅也と結婚する前。
笑っている。
楽しそうに。
仕事仲間に囲まれて。
その写真の。
ずっと後ろ。
人混みの中に。
一人の青年が立っていた。
黒い髪。
白い肌。
まだ少し幼さの残る顔。
けれど。
間違えるはずがない。
「……律くん?」
栞の心臓が大きく鳴った。
写真を裏返す。
そこには。
律の字で。
たった一行だけ書かれていた。
『あの日、僕を救ったのはあなたでした。』
「…………え?」
窓から風が吹き込む。
カーテンが揺れる。
栞の手の中で。
深紅のバラが揺れた。
律は。
雅也への復讐のために。
栞を選んだ。
そう思っていた。
けれど。
もし。
それよりもずっと前から。
二人が出会っていたのだとしたら――。
「どういうことなの……律くん」
答える者はいない。
ただ。
枯れない深紅のバラだけが。
何もかも知っているように。
栞の手の中で咲いていた。