『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
律の指が。
その涙を拭った。
初めて会った夜と同じように。
「綺麗な涙ですね」
「……それ、嫌い」
「嘘ですね」
「嫌い」
「じゃあ、もう言いません」
「…………」
「でも」
律が微笑む。
「泣くなら、僕の前で泣いてください」
栞は彼を見た。
ずるい。
本当に。
どこまでも。
「……律くん」
「はい」
「私」
一度。
息を吸った。
「今は、あなたを許せない」
律の瞳が揺れる。
「はい」
「信じられない」
「はい」
「だから」
栞は律の胸へ手を置いた。
「あなたのものにもならない」
長い沈黙。
「……分かりました」
意外だった。
もっと強引に何か言うと思っていた。
栞は腕の中から抜け出す。
今度は。
律は止めなかった。
一歩。
離れる。
「帰るね」
「送ります」
「一人で帰る」
「……はい」
素直すぎて。
少しだけ笑いそうになった。
栞は背を向ける。
歩き出す。
一歩。
二歩。
三歩。
「栞さん」
呼ばれて。
足が止まった。
振り返らない。
「待っています」
律の声が聞こえる。
「何年でも」
「…………」
「あなたが自分で僕を選んでくれるまで」
胸が。
また痛んだ。
けれど今度の痛みは。
少し違っていた。
栞は振り返らないまま。
「……馬鹿」
小さく呟いた。
そして。
歩き出した。