​『破滅の先で、愛を知る』 ​〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜

「……おかしいよ」

栞は呟いた。

「はい」

「そんなの、愛じゃない」

「そうかもしれません」

「普通じゃない」

「知っています」

律が笑った。

寂しそうな笑顔だった。

「僕は、あなたを幸せにしてあげられるような人間じゃない」

「…………」

「きっと束縛する」

指が絡む。

「嫉妬もする」

「…………」

「あなたが僕から離れようとしたら」

そこで。

律は言葉を止めた。

「……何?」

「追いかけます」

「どこまで?」

「どこまでも」

即答だった。

思わず。

栞は笑ってしまった。

「怖い」

「はい」

「そこは否定してよ」

「嘘はつきたくありません」

「今さら?」

「今さらだからです」

律も。

少しだけ笑った。

それを見た瞬間。

栞の胸が締めつけられた。

ああ。

私は。

この人のこんな顔を。

もっと見たいと思ってしまっている。

「栞さん」

笑みが消える。

律が真っ直ぐに栞を見つめた。

「僕の過去を知っても」

指が絡んだまま。

「僕があなたを利用していたと知っても」

低い声が。

夜へ溶けていく。

「まだ僕を拒みますか?」

「…………」

「それとも」

律が囁く。

「僕と一緒に来てくれますか」

栞は目を閉じた。

浮かんだのは。

七年間暮らした家だった。

磨き上げた床。

毎日整えたリビング。

雅也が好きだった食器。

皺ひとつないワイシャツ。

季節ごとに変えた花。

完璧だった。

誰に見せても。

幸せな家庭だった。

でも。

あの家の中で。

私はいつから笑えなくなったのだろう。

いつから。

自分が何を好きだったのかさえ、分からなくなったのだろう。

正しく。

綺麗で。

誰から見ても羨ましい人生。

その中で。

私はずっと。

空っぽだった。

栞は目を開けた。

目の前には律がいる。

嘘をついた男。

自分を利用した男。

復讐のために近づいた男。

そして。

自分の醜いところまで見たうえで。

それでも欲しいと言う男。

「……もう」

栞は呟いた。

「戻れる場所なんてないわ」

律の瞳が揺れた。
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