『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
「栞さん」
「でも」
栞は律の胸へ手を置いた。
「勘違いしないで」
「……え?」
「あなたに連れていかれるんじゃない」
律が黙る。
「私が決めるの」
栞は彼のコートを握った。
「雅也を捨てたのも」
ぎゅっと。
「今までの私を捨てるのも」
そして。
律を見上げる。
「あなたを選ぶのも」
自分で。
決める。
律の瞳が。
初めて大きく揺れた。
「だから」
栞は彼の胸へ額を寄せた。
鼓動が聞こえる。
速い。
いつも余裕のあるこの男の心臓が。
自分の言葉ひとつで。
こんなにも乱れている。
それが。
どうしようもなく嬉しかった。
「私を絶対に見捨てないで」
「…………」
「私が面倒になっても」
コートを握る。
「泣いても」
もっと強く。
「あなたを嫌いだって言っても」
律の腕が。
ゆっくりと栞の背中へ回った。
「離さないで」
声が震えた。
「私を愛で縛って」
律の胸へ顔を埋める。
「律くん」
一瞬。
抱く腕が震えた。
「……そんなこと」
耳元で。
低い声がする。
「言っていいんですか」
「え?」
「僕は」
腕が強くなる。
「本当に離しませんよ」
「…………」
「後悔しても遅い」
栞は目を閉じた。
「しない」
「栞さん」
「だって」
小さく笑う。
「あなたも、もう逃がしてくれないんでしょう?」
沈黙。
そして。
律が笑った。
初めて聞く。
心から嬉しそうな笑い声だった。
「ええ」
抱きしめられる。
強く。
「絶対に」
耳元で。
誓うように。
「約束します」
律の唇が髪に触れる。
「あなたの傷も」
額に。
「過去も」
頬に。
「これからの孤独も」
そして。
唇のすぐそばで止まった。
「全部、僕が愛します」
「……律くん」
「栞さん」
最後に。
ほんの少しだけ。
律は待った。
だから。
栞から距離を埋めた。
唇が重なる。
触れた瞬間。
律の腕が強くなる。
優しかった口づけが。
少しずつ熱を帯びていく。
息が苦しい。
それでも。
離れたくなかった。
七年間。
誰かに望まれる妻を演じ続けた。
でも今。
初めて。
自分が欲しいものへ。
自分から手を伸ばしている。
正しいのかなんて。
分からない。
きっと。
正しくはない。
それでも。
律の背中へ腕を回す。
夜の底で。
二人は。
互いの傷を抱くように。
長く。
深く。
唇を重ねた。