『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
幸せなのかと聞かれたら。
栞には分からない。
世間が思い描くような。
明るく。
正しく。
何ひとつ後ろ暗いところのない幸福ではない。
二人を繋いだのは。
裏切りだった。
復讐だった。
嘘だった。
傷だった。
そして。
狂気と呼ばれても仕方がないほどの執着。
それでも。
律の腕の中で。
栞は静かに目を閉じる。
この人は。
自分の傷を知っている。
醜い感情も。
復讐を望んだ心も。
全部。
知っている。
栞も。
律の傷を知っている。
優しいだけではないことも。
深い闇を抱えていることも。
全部。
知っている。
それでも。
一緒にいることを選んだ。
「栞さん」
「なに?」
「愛しています」
「……知ってる」
「栞さんは?」
「言わない」
「どうして?」
「毎日聞くから」
「毎日でも聞きたいです」
「欲張り」
「あなたに関しては」
律が栞を抱く腕を強める。
「ずっとそうです」
栞は笑った。
そして。
彼の胸に頬を寄せる。
「……私も」
「聞こえません」
「もう言わない」
「栞さん」
「ふふっ」
窓の向こうで。
海が光っていた。
テーブルの上では。
小さな白い花が揺れている。
そして。
その隣には。
あの夜。
律から渡された――
深紅のバラが一輪。
今も。
枯れることなく咲いていた。
栞はその赤を見つめる。
以前は。
怖いと思った。
毒々しいと思った。
今は。
少しだけ違う。
傷ついて。
歪んで。
それでも。
生きている。
まるで。
私たちみたい。
「栞さん」
背後から呼ばれる。
「はい」
振り返る。
そこに。
律がいる。
もう。
檻の外へ戻りたいとは思わなかった。
だって。
鍵を掛けたのは。
律だけではない。
私も同じだ。
この人を。
誰にも渡したくない。
だから。
二人で閉じ込めた。
互いだけを。
この永遠の檻の中に。
(了)

