『破滅の先で、愛を知る』 〜サレ妻の復讐劇と、危険な年下男の溺愛〜
玄関の扉が開いた。
「ただいま」
聞き慣れた声。
栞の口元が自然に緩む。
「おかえりな――」
最後まで言えなかった。
背後から。
腕が回ってきた。
「……律くん」
「はい」
背中に体温が重なる。
律が首筋へ顔を埋める。
「ちょっと。帰ってきていきなり?」
「駄目ですか?」
「駄目とは言ってないけど……」
「なら、いいですね」
「もう」
栞は呆れながら笑った。
首筋へ。
唇が触れる。
「……律くん」
「何ですか?」
「くすぐったい」
「我慢してください」
「なんで私が」
「僕がしたいので」
「相変わらず勝手ね」
「知っていたでしょう?」
「知ってた」
くすくすと笑う。
そのまま。
律の腕へ手を重ねた。
「栞さん」
「ん?」
少しだけ。
声が変わった。
栞は振り返る。
律が自分を見ていた。
あの頃と変わらない。
深く。
重く。
少し怖いほどの目。
「何?」
「いえ」
「言って」
律は少し黙って。
栞の頬へ触れた。
「……本当にいるなと思って」
「何それ」
「たまに」
律が目を伏せる。
「全部夢だったんじゃないかと思うんです」
胸がきゅっとなる。
兄を失ったこと。
復讐だけを支えに生きた年月。
きっと。
この人の傷も。
完全には消えない。
だから。
栞は律の頬を両手で包んだ。
「いるよ」
「…………」
「ここにいる」
律が目を閉じる。
栞の掌へ。
頬を預けた。
その姿が。
少しだけ幼く見えた。
「だから」
栞は微笑む。
「おかえりなさい、律くん」
ゆっくり。
律が目を開けた。
「……ただいま」
そして。
抱きしめられた。