狙われた姫勇者は、呪われた透明騎士をみつけたい

第二十三話 逃がさない


「俺……エルルのことが好きだよ。大好きだから、見てたんだ」

 最初、ディレイさんがなにを言ったのか本当にわからなかった。
 
 好き?
 好きって……なにが?

 え?
 僕?

 ディレイさんは、僕のことが好き……?
 それも、大好きって――

 そこまで考えたところで、座っていた椅子ごと視界が回った。
 体のバランスが崩れて、貧血みたいに世界がぐるぐるした。 

 夢じゃない。
 たった今ディレイさんは、僕のことが好きだって言った。

 大好きだって、言ってくれたんだ。

 ここ最近の僕なら、もしディレイさんに『エルルのことは好きだよ。もちろん、友達としてね』って……そう言われたとしても、きっと飛び上がるくらい嬉しかったと思う。

 けど実際にディレイさんから告げられた『好き』は、友達なんかじゃなくて――

「――おっと危ない」

 けどその時。

 考えることがあまりにも多すぎて、受け身も取れずに倒れそうになった僕を、優しい声と力強い腕が支えた。

「大丈夫?」

「ディレイ、さん……」

「驚かせてごめん。俺にこんなこと言われても……エルルは迷惑だよね」

 わかる。
 見えなくても、僕にはわかる。

 透明なディレイさんの、強い腕に抱かれて。

 その逞しい体から伝わってくる不安や後悔が。
 いつの間にか一緒に透明になっていた僕には、はっきりと感じ取れた。

「迷惑なんかじゃ、ないです……」

 だから、安心させたくて。

 見えなくても感じるディレイさんの視線から真っ赤になって目を逸らして、だけどそっと、僕を支えてくれる腕に手を添えた。

「むしろ、その……すごく、嬉しかったです。嬉しすぎて、今もどうにかなっちゃいそうで、僕……っ」

「う、ぐぐっ……」

「……?」

 思い切って声に出した僕の言葉。
 けどその声を聞いたディレイさんの腕が、突然ぷるぷると震え始めて――

「あーーーーもうっ! かわいすぎるだろっ!?」

 チリン!

 鈴の音が一度、大きく響いた。

「はわっ!?」

 瞬間、僕は『透明な熱』に抱きしめられた。
 
 ずっと前、出会った頃に採寸したのと同じ。
 僕よりもずっと大きい体に、頭の先からすっぽりと包まれて。 
 そのぬくもりに、また意識がどこかに飛んでいきそうになって――

「ご、ごめん……なんていうか、我慢できなかった。マジでごめん」

「あ……っ」

 けどそのままずっと溺れていたかった熱は、少ししたらすぐに離れてしまった。

「これでよし、と……今度は転んだりしないようにね」

「あの、その……っ」

 抱えられていた僕の体が、そっと椅子の上に戻る。
 ディレイさんに密着して透明になっていた僕が、まるで夢から現実に引き戻されたみたいにその場に現れる。

 チリン、チリン。

 僕を椅子に置いて、ディレイさんが離れていく。
 重い足音と一緒に、鈴の音が遠ざかっていく。

 ひどい。
 僕をこんなにして、一人ぼっちにするなんてひどい。

 そう思うくらいの強い喪失感に襲われた僕は、遠ざかっていく透明なぬくもりに向かって手を伸ばしていた。

「待ってくださいっ!」

 叫んだ。

 逃がさない。
 うやむやになんてしない。

 僕を置いてどこかにいくなんて、絶対に許さない! 
 
「僕も……ディレイさんが好きです」

「っ……」

「こういうの、初めてですけど……僕にだって、ディレイさんが言ってくれた好きがどういう意味なのかはわかります。だから、僕の好きも……――そういう好きです」

 ディレイさんの体は、もう僕から離れてる。
 さっきまで聞こえた鈴の音も、足音もしなかった。

 だけどわかる。

 僕はディレイさんがいるはずの場所をまっすぐに見つめて、はっきりとそう口に出した。

「……でも俺、透明人間だよ?」

「治します」

「しかも地位も血筋もない、第一村人なんだけど……」

「僕のお母様もそうでした。それにディレイさんは勇者ですし、いいと思います」

「それにほら……もし呪いが解けて、俺がヤバい化け物みたいな見た目だったらどうするの?」

「外見なんてどうでもいいです。というか……最初から見えないディレイさんを好きになった僕に、そんなこと聞くんですか?」

「ま、マジか……」

 言いながら、僕は椅子から立ち上がる。

 そのままディレイさんがいるはずのところまで歩いていって……ここかなっていう辺りに手を伸ばした。

「――えいっ! 見つけましたっ!」

「ちょ……っ!? エルル!?」

 見つけた。
 やっぱりディレイさんは、僕が思ったとおりの場所にいた。

 伸ばした手を絡めて、今度は僕から抱きついてやった。
 でもこの感じ……ディレイさんは僕に背中を向けてたみたい。

「大好きです。僕のこと、好きって言ってくれて……すごく嬉しかった」

 だから、もう一度。

 変なところで奥手な、大切な僕の護衛騎士を安心させたくて。
 後ろから抱きしめながら、はっきりそう伝えた。 

「あー……ごめん、めちゃくちゃ嬉しい……なんか泣きそう……」

「大丈夫です。僕もそうですから……」

 離れていったぬくもりを取り戻すみたいに。
 気が遠くなるくらい長い時間、僕たちは二人でくっついていた。

 ディレイさんをずっと苦しめてきた、透明な呪いだけど。

 今みたいに誰にも邪魔されたくないときには、とっても役にたってくれたから――。
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