狙われた姫勇者は、呪われた透明騎士をみつけたい
最終話 僕の大好き
「――じゃあ、行こうか。エルル」
「はいっ!」
白い太陽の光が差し込むバルコニーから離れた、少しだけ奥の部屋。
白と青の正装に身を包んだディレイさんが差し出した手を、同じ色合いのドレスに身を包んだ僕はしっかりと握り返した。
ディレイさんの呪いが解けてから、ちょうど一年。
あれからもいろいろなことを乗り越えて、解決して、今も頑張り続けている僕たちは、晴れて結婚の日を迎えることができた。
「ううーっ……あんなにちっちゃかったエルルとディレイが、まさかこんなに立派になって結婚までしちゃうなんてー……なんだかこっちまで泣けてきちゃうー……!」
「うむ……これで私も安心して隠居できるというものだ。先に逝ったユーエルナも、二人の門出を見守ってくれていることだろう……」
そんな僕たちの晴れ姿に、いつもと同じ様子のノルンも、あれからすっかり元気になったお父様も、嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとうございます……僕たちはこれからも、どんなときも二人で生きていきます」
「俺たちだけじゃないさ。この国のみんなも、他の国のみんなとも……エルルならきっと手を繋いでいける。見えない俺の手だって繋げたんだから楽勝だって!」
「あははっ! ですね、僕もそう思いますっ!」
僕はお父様とノルンに頷いて、それから今もぴったりと寄り添ってくれるディレイさんを見上げて精一杯笑う。
あの後、ヴェルテウスさんの起こした騒ぎは首謀者不明のまま処理された。
操られた近衛のみんなも怪我はしてなかったし、呪いにかかっている間のことも覚えてなかったから、ヴェルテウスさんのことを隠し通すのは簡単だった。
そのあと、ほとんど同じタイミングで今度は『本物の大魔王からの使者』が僕のところにやってきた。
使者が伝えたのは、僕たち人間との講和を望む大魔王の言葉。
長い戦いで疲弊していたのは僕たちだけじゃなくて……これで本当に、人と魔族の戦いはひとまずの終わりを迎えることになったんだ。
「けど、やっぱりちょっと寂しいです……」
「……あの二人のこと?」
「はい……サレンさんやヴェルテウスさんにも、一緒にいて欲しかったなって思っちゃって。だめですよね、せっかくの結婚式なのに……」
あのあと、サレンさんとヴェルテウスさんがどうなったのかはわからない。
探したりもしてないから、当たり前ではあるんだけど……。
「んーん、ぜんぜんだよ。俺はそんなエルルのおかげで、今ここにいるんだから」
「ディレイさん……」
「今日ここで結婚して、夫婦になっても……俺はこれからもエルルを守る。エルルの優しさも、強さも弱さも……全部俺が一緒に支える。この先もずっと、そうさせてほしいんだ」
「っ……」
まだ式はこれからだっていうのに。
ディレイさんの言葉と眼差しのせいで、目の前が滲んで見えなくなる。
本当にディレイさんは、いつもすぐに僕を泣かせるんだから……!
「わかりました……ならこれからも、ずっと一緒にいてくださいね、ディレイさんっ!」
「もちろん! なんたって、俺はエルルの護衛騎士で夫だから!」
取り合った手をもう一度握りしめて、僕たちは眩しいくらいに明るいバルコニーに歩いて行く。
近付くにつれて、式に集まってくれたみんなの歓声が僕たちの耳に届いてくる。
もしかしたら、この声の中にあの二人もいるかもしれない。
いてくれたらいいって……僕は胸の奥で祈るように願う。
どこまでも広がる青空と、響き渡る祝福の声。
バルコニーの上から見えるその景色は、本当に光輝いていて。
一年前……僕が大魔王を倒したときには見えなかった沢山のものが、今の僕の目には、はっきりと映っていた。
「あ……そういえばさ」
「どうしたんですか?」
「こんなときなんだけど、思い出したことがあってさ。ちょっと聞いてもいい?」
でもそのとき、バルコニーから集まったみんなに手を振る僕に、同じように手を振っていたディレイさんが突然そんなことを言い出したんだ。
「えっと……その……うーん……あのさ、エルルから見て俺って……」
「ふんふん?」
らしくもなくもじもじするディレイさんに、僕は思わず顔を寄せて耳を傾ける。
そうしないと、みんなの歓声が大きくてディレイさんの声が聞こえなかったから。
「お、俺の顔って……どう、かな? エルル的には、悪くない感じ?」
「は……?」
思わず、顔が引き攣った気がした。
ディレイさんの心配が、あまりにも今さら過ぎたから。
「い、今!? それ、今聞くんですかっ!? 僕と結婚するこのタイミングでっ!?」
「だってやっぱ恥ずかしーしっ! しかも聞きたくないっ! 聞くのが怖いっ! うわー! うわーっ!」
「でぃ、ディレイさん……」
ほ、本当にこの人は……。
普段はマイペースなのに、変なところで自信がないんだから。
あまりに今さらなその質問に拍子抜けする僕と、本気で恥ずかしがって真っ赤になってるディレイさん。
こんなの、下で見てるみんなが気づいたらびっくりしちゃうかもしれない。
だから――
「はぁ……本当に困った旦那様ですっ。なら、僕がここではっきり教えてあげますねっ!」
「え?」
だから、僕はいつもしてるみたいに思いっきりディレイさんに身を寄せる。
そうして僕より大きなディレイさんを下から見上げて、今からしようとしていることを、目と表情で思いっきり伝えてあげた。
「安心してください……僕の旦那様のお顔はとっても素敵で、僕が世界で一番大好きなお顔です……愛してます、ディレイさん」
「マジか……嬉しすぎて涙出てきた……」
「それなら、僕が隠してあげます……」
そのまま精一杯背伸びをして、泣きそうなディレイさんの顔を隠すようにしてキスをした。
あまりにも近付きすぎて、ディレイさんの顔はちゃんと見えないけど。
今の僕には、見えなくたってわかる。
きっと僕の大切で大好きな人は、困ったような、照れたような。
とっても嬉しそうな顔で、笑ってるって。
見えなくても、ちゃんとわかるから――。
見えなくたってわかります~狙われた姫勇者は、呪われた透明騎士をみつけたい~
完