普通の関係ではありませんが、私達は仲良しです。
伊吹さんは仕立ての良いスーツを着ていて、モデル顔負けのオーラを纏っていた。
名門大学を卒業後、アメリカに二年間留学して、MBA(経営学修士)を取得。帰国後は、鳳不動産に就職した。
次男でありながら、会社内では次期社長と期待され……。
白山銀行の創業者一族出身の私を娶り、……跡取りを作った。
「やっほー、来たよ。」
「由貴ちゃん!」
楽屋を覗くと、準備してる奏矢の姿があった。
今日は若手の演奏家が出演するコンサートに、奏矢も出るので、コンサートホールにやって来た。
「これ、差し入れのシュークリーム。皆さんで召し上がってね。」
「ありがとう。皆んな!シュークリーム、差し入れで頂いたよ。」
「ありがとうございます!」
「シュークリーム、大好きっす!」
シュークリームの箱を受け取ると、まだ開演まで少し時間があるので、出演者の皆さんは、美味しそうに食べてくれた。
父に言われた事がある。
“観賞用として見る分には良いが、間違いは犯すなよ。”
そう言われ、初めて父に反発した。
“奏矢は物じゃない!泣いたり、笑ったり、感情を持つ人間だ!”
幼馴染の私達は、高校生になっても、仲が良かった。
私は女子校で、奏矢は音楽科の高校に通い、絵画教室で絵を描く、チェロのレッスンで、お互いに忙しかったが、ご近所さんで、良く会っていた。
奏矢の父親は、イギリス人でハーフだ。
……初めて会った時、天使だと思った。
祖父のコレクションの中に、天使が描かれた絵があって、そのモデルになったのではと、思う程、そっくりだった。
「奏矢さんの彼女っすか?」
「違うよ、幼馴染。」
シュークリームを食べる、男の子に聞かれたが、奏矢が否定した。
「由貴ちゃんには旦那さんと、可愛い息子が二人いるよ。」
「まだお若いのに、人妻で子持ちっすか?!」
と、驚かれた。
奏矢には、全部話していた。
奏矢の発表会や、コンサートには、必ず足を運んだ。
私の作品の展示会に、奏矢は来てくれた。
絵画教室の展示会、美大の学生展示会に、私は作品を出展していて、出した作品は全て売れていた。
私の絵が好きだと、気に入ってファンになってくれて、嬉しかった。
初めてのキスの相手は奏矢だった。
“好きだよ、由貴ちゃん。”
私はその思いに、応えられなかった。
奏矢が好きだけど、それが恋で恋愛感情なのかは、良く分からなかった。
幼馴染で、私にとって大切な存在なのは、間違いなかった。
一番のファンでいると、約束した。
奏矢は私の父に、良く思われてないのを知っていた。
コンサートの後、レストランで奏矢と食事をした。
天井が高く開放感のあるフレンチレストランで、コース料理を楽しんだ。
特に、蝦夷鹿とフォアグラのポワレが美味しかった。
蘭々さんのサロンの名前は『Lulu』で、フランス語で可愛い子や愛しい子と、子供やペットなどに対する愛称として使われた。
あのお店は、蘭々さんにとって、我が子同然なのだろう。
私は仕事がひと段落すると、サロンに顔を出した。
雰囲気が良くて、料理が美味しい、ピアノの演奏が聴ける。
お気に入りのお店だ。
すっかり、ファンになった。
「どこかでお会いした事、ありませんか……?」
伊吹さんから親友を紹介したいと、言われて家族三人で暮らす、マンションの部屋にやって来た、男の人の顔を見て訊ねた。
……見覚えがある気がするのだが、一体、どこで会ったのか。
「妹の葬儀でお会いしましたよ。」
「!」
思い出した。
莉亜ちゃんの葬儀に参列した時、だ。
当時は妹の死に憔悴していて、今と印象が違った。
「“由貴子先輩”に描いてもらったんだと、妹に自慢されました。将来は有名な画家の先生になるのだから、サインを考えてあげるんだと、言ってました……。」
私のサイン、Yukico.S.を考えてくれたのは、莉亜ちゃん。
普通はYukikoの綴りだけど、coにしたのが、こだわりだと教えてくれた。
莉亜ちゃんのお兄さんは、伊吹さんとは中高一貫の男子校の同級生で……。
莉亜ちゃんは六歳年下の妹で、歳は離れてたがとても仲の良い兄妹で……。
「妹を描いて下さった絵は、今も妹の部屋に飾ってあります。とても気に入ってたので、棺に入れようかと、話したのですが母が反対しました。あの子が大切にしていた物を燃やすなんてと……。」
伊吹さんと莉亜ちゃんのお兄さんが、親友なのは驚いた。
世間は広いようで狭かった。
葬儀には伊吹さんも、参列していたそう。
凄い偶然……。
私は記憶になかったが、すれ違ってたかも。
莉亜ちゃんは自殺してしまった。
才能のあるバレリーナだったが、大きな怪我をしてバレエが出来なくなった。
絶望して、自ら命を絶った。
私が高校三年生で、莉亜ちゃんが高校二年生の出来事だった。
隣に伊吹さんが寝てる。
……美しい寝顔。
莉亜ちゃんと伊吹さんは、親しかったのかな?
親友の妹で、可愛がってた?
私と莉亜ちゃんは、幼稚園から同じ女子校に通っていた。
学年が違うので、親しくなる機会はなかった。
莉亜ちゃんは美少女で天才バレリーナと、有名な子だった。
親しくなったきっかけは、私が高校二年生の時に、高校一年生の莉亜ちゃんに、絵のモデルになって欲しいと、お願いした事だった。
絵が完成して、プレゼントすると、喜んでくれた。
私のサインを考えてくれた。
コンクールに向けて、レッスンを受けてる最中に大怪我を負った。
ジャンプの着地の際、アキレス腱を断裂してしまった。
……コンクールに出られない。
リハビリをしたところで、長期間レッスンを休み、その間のブランクを埋められるのか……。
選手生命が絶たれたようなもの。
三歳からバレエを始めた。
人生を賭けてバレエに打ち込んで、莉亜ちゃんにとって、バレエが生き甲斐で全てだった。
絶望するには、十分過ぎた。
私は何も、出来なかった。
元気付けたり励まして、前向きな気持ちにさせる事なんて……。
無力な自分に、心底腹が立った。
生きていて欲しかった。
けど、莉亜ちゃんの人生なのだから、莉亜ちゃんの自由だ。
自分の命をどう、するのか。
それに痛い程、気持ちが分かった。
絵が描けなくなったら、同じ選択をする。
確信があった。
私にとって、絵を描くのは生きるのと同じ。
それを奪われたら、生きていけない。
伊吹さんにとって、それ程、大切なものはあるのかな。
なんとしても、守りたい存在が。
私のお見合い相手、結婚相手が、私から絵を描くのを奪うような人間だったら私は……。
……自ら命を絶っていた。
なんの躊躇もなく。
本当に運が良かった。
伊吹さんは、私から奪わなかった。
「伊吹さんをモデルにして絵を描かせて下さい。」
そう、お願いした。
了承してくれた。
アトリエに招いて、絵を描き始めた。
まず下描きから。構図とバランスを決めた。
「肩の力、抜いて下さい。なるべくリラックスですよ。」
鉛筆を動かしながら、言った。
伊吹さんは休みの日、資格の勉強をしたり、勤勉で努力家なイメージがある。
知的な雰囲気で描こうと、椅子に座ってもらい、小道具に本を用意した。
服装は白のシャツに、黒のズボンで、足元はスニーカーと、カジュアルな格好。
仕立ての良いスーツの仕事着に、お洒落な私服を普段は着てるが、私が衣装として、用意して着てもらった。
新鮮で良かった。
「お疲れ様です。」
下描きを終えた。
初めて絵のモデルをした伊吹さんは、お疲れのご様子だった。
私からの視線、見られるのに疲れたのだろうな。
絵を描きながら、物凄い目をしてる自覚があった。
視姦するくらい、ジッと見つめて観察して、キャンバスに描いていく。
そんな視線に晒されて、モデルが疲れるのは当たり前だ。
下描きを終えたら、色を付けていく。
まず、溶き油で薄めた絵の具で、明暗や色の配置を決める。
薄塗りから手順を踏んで、層を重ねて影やハイライトを入れて、筆使いで厚みや質感の違いを表現する。
完全に乾いたら、グレースを重ねて、色味を調節して、最後に一番明るいところや、細部の線を描き足して、バランスを整える。
また完全に乾かして、ニスをかけて保護してあげる。
私はアトリエに籠り、仕上げまで持っていった。
完成した作品は、伊吹さんにプレゼントする。
「どうですか……?」
「俺じゃないみたい、ですね。」
「……え?下手、ですか?」
「そうではなくて、由貴子さんの目に俺は、こんな風に映ってるんだなって……、」
「……。」
「ありがとうございます。綺麗に描いて頂けて、嬉しいです。」
取り敢えず、喜んでもらえたなら良かった。
Yukico.S.とサインを入れて、絵に合わせて額縁を選んで、入れて本当に完成した。
額縁は自分で手作り、する事もあった。
莉亜ちゃんにプレゼントした絵には、自分で手作りした額縁に入れた。
装飾が豪華な額縁は、お高いので当時の私には手が出なかった。
デザインを自分で考えて、彫刻刀で柄を彫って完成、させたのだった。
伊吹さんは莉亜ちゃんから、私の話を聞いた事があったそう。
“由貴子先輩”の話を……。
絵の才能を持っていて、将来は有名な画家の先生になる、と。
莉亜ちゃんの期待に応えられなかった。
けど、まだ間に合う。
まだ、二十五歳だ。
……生きていて、挑戦出来る。
なれる。
莉亜ちゃんが言ってくれた、有名な画家の先生に。
コンクールに絵を出す事を決めた。
目指すは一番上。
名声に興味はなかったが、絵の才能を持ってると、私を肯定してくれた、莉亜ちゃんの目は正しかったと、証明する為に。
私は歴史あるコンクールで、大賞を受賞した。
推薦ではなく、公募枠での出展だったが。
審査員の中には、高嶺先生もいた。
絵画教室で絵を見てくれてた、先生から連絡があったり、おめでとうと祝福された。
奏矢に蘭々さんも、お祝いしてくれて……。
祖父は流石は、儂の孫娘だと、抱き締めてくれた。
授賞式では、高嶺先生から直々にお言葉を頂いた。
経歴に箔が付いたので、私の作品は名門の画廊に置いてもらえ、画壇や世間から評価を得るようになった。
莉亜ちゃんの目は正しかったと、証明出来て嬉しかった。
大賞を受賞した絵は、莉亜ちゃんをモデルに女神を描いた大きな作品だった。
莉亜ちゃんのお母さんに許可を頂いた。
娘さんをモデルに描いた絵を、コンクールに出して良いですか、と。
お母さんは喜んで、許可してくれた。
「改めて、おめでとうございます。」
「……ありがとうございます。」
伊吹さんがワインを開けてくれて、夫婦で乾杯した。
充葉は菖蒲さんが寝かし付けて、子供部屋で既に寝ていた。
充葉には寂しい思いをさせて、申し訳なかった。
アトリエに籠って、作業に没頭した。
睡眠、食事、排泄、以外の時間は、全て絵を描くのに使った。
なので、夫婦で顔を合わせるのも、久しぶりだった。
私は絵を描き始めると、他は目に入らなくなる。
目の前の絵の事しか、考えられなくなる。
絵を描いてる人なら、そう言うものだと思う。
芸術家は皆んなそうだ。
家族を犠牲にしても、表現せずにはいられない、生き物……。
芸術家の性。
自分では、どうしようもない事だった。
伊吹さんが外に女を作っても、文句は言えないが、私だけを見て欲しい……。
独占欲は一丁前にあった。
この人は、私の夫で旦那様だと。
「ベッド、行きませんか?」
お祝いのワインはそこそこに、そう提案した。
ワインは高級な銘柄で、とても美味しかったが、それより伊吹さんの体を味わいたい。
……酔っ払う前に、セックスがしたい。
セックスは大切なコミュニケーション。
言葉にするのは苦手。
体を繋げるのが一番、気持ちが伝わる。
私の体は、雄弁に語ってくれた。
伊吹さんを愛してる、そんな気持ちを。
「愛してます。由貴子さん。」
そう囁き、伊吹さんはとびきり甘いキスをしてくれた。
胸がいっぱいになって、幸せだと感じた。
私は恵まれてる。
伊吹さんと、巡り会えたのだから。
最愛の人に。
「…あッ、んっ!」
夫婦の寝室に、甘い声が響く。
正常位で繋がって、脚を伊吹さんの腰に絡めていた。
伊吹さんの激しい腰の動きに、快楽に翻弄される……。
「舌、出して下さい。」
伊吹さんに言われた通り、私が舌を出すと舌を舐められて、それから、口内に舌が入って来た。
上の口と下の口、両方から卑猥な水音がする。
唾液が絡み、愛液が絡み。
耳が犯された。
気持ち良いと、膣内が収縮して精液を搾り取ろうとする。
夫の遺伝子が欲しいと、女の本能が訴えかける。
「中に出して!」
三人目を妊娠しても、伊吹さんとの子なら、私は産みたい。
「…伊吹さんっ、」
縋るように呼ぶと、伊吹さんは私の中で果てた。
生で中出しされた。
伊吹さんが私の中から出て行くと、栓が抜けて精液が溢れ出すのが、自分で分かった。
「あっ。」
伊吹さんは私の膣内に、指を入れて掻き出してしまった。
私を抱き上げると、伊吹さんは寝室から出た。
そのままお風呂場に運ばれて、残りの精液もシャワーを当てられ、流されてしまったのだった。