光のはじまり ― 王子が困るまで ―
その後も、似たようなことはあった。
家族への説明。
後輩医師への指導。
正確なことを伝えたつもりでも、相手が質問できなくなれば、必要な情報が出てこない。
分からないことを抱えたまま、仕事が進んでしまう。
それは困る。
……言い方を変える必要があるのか。
理久は、少しずつ意識するようになった。
◇
ある日の夕方。
電子カルテの前で記録を書いていると、師長に声をかけられた。
「藤崎先生」
理久は顔を上げた。
「はい」
「先生は、答えを出すのが早いわね」
「早いのは悪いことですか」
「悪くはないわよ」
師長は少し笑った。
「でも、相手が追いつく前に、先生だけ先に行ってしまうことがあるわよね」
理久は黙った。
……相手が追いつく前に。
答えを早く出すことは、必要だ。
ただ、その答えを伝えたことで相手が黙ってしまえば、確認すべきことも聞けなくなる。
相手が理解し、次に動ける状態になって初めて、仕事が進む。
そういうことか。
理久は師長を見た。
「言い方も、仕事のうちということですか」
師長は満足そうに頷いた。
「90点」
「満点ではないんですね」
「まだまだこれからでしょう?」
理久は小さく息を吐いた。
また採点された。
しかも、なかなか満点にはならないらしい。
「王子、頑張れ」
誰かが小さく言った。
理久は無視しかけて、少し考えた。
……ここは、何か返すべきか。
振り返る。
「……頑張ります」
そう答えてみた。
ナースステーションの空気が、少しだけ緩んだ。
「王子、やるじゃん」
「どうも」
理久は軽く頭を下げ、病棟を離れた。
外病院は、知らない場所だった。
大学病院にいた頃の理久を、誰も知らない。
ここでは、ただの藤崎先生だ。
これまでのやり方が通じないなら、変えればいい。
正しいことを言うのを、やめるつもりはない。
ただ、その正しさを、相手が受け取れるようにする。
それも仕事なのだと。
理久は、ようやく気づき始めていた。
家族への説明。
後輩医師への指導。
正確なことを伝えたつもりでも、相手が質問できなくなれば、必要な情報が出てこない。
分からないことを抱えたまま、仕事が進んでしまう。
それは困る。
……言い方を変える必要があるのか。
理久は、少しずつ意識するようになった。
◇
ある日の夕方。
電子カルテの前で記録を書いていると、師長に声をかけられた。
「藤崎先生」
理久は顔を上げた。
「はい」
「先生は、答えを出すのが早いわね」
「早いのは悪いことですか」
「悪くはないわよ」
師長は少し笑った。
「でも、相手が追いつく前に、先生だけ先に行ってしまうことがあるわよね」
理久は黙った。
……相手が追いつく前に。
答えを早く出すことは、必要だ。
ただ、その答えを伝えたことで相手が黙ってしまえば、確認すべきことも聞けなくなる。
相手が理解し、次に動ける状態になって初めて、仕事が進む。
そういうことか。
理久は師長を見た。
「言い方も、仕事のうちということですか」
師長は満足そうに頷いた。
「90点」
「満点ではないんですね」
「まだまだこれからでしょう?」
理久は小さく息を吐いた。
また採点された。
しかも、なかなか満点にはならないらしい。
「王子、頑張れ」
誰かが小さく言った。
理久は無視しかけて、少し考えた。
……ここは、何か返すべきか。
振り返る。
「……頑張ります」
そう答えてみた。
ナースステーションの空気が、少しだけ緩んだ。
「王子、やるじゃん」
「どうも」
理久は軽く頭を下げ、病棟を離れた。
外病院は、知らない場所だった。
大学病院にいた頃の理久を、誰も知らない。
ここでは、ただの藤崎先生だ。
これまでのやり方が通じないなら、変えればいい。
正しいことを言うのを、やめるつもりはない。
ただ、その正しさを、相手が受け取れるようにする。
それも仕事なのだと。
理久は、ようやく気づき始めていた。