光のはじまり ― 王子が困るまで ―
桐谷は、店の前で女性たちに囲まれている理久を見ていた。
予想どおりだった。
藤崎理久は、こういう時でも感じがいい。相手に恥をかかせず、笑顔のまま断ろうとする。
それが余計に、相手を諦めさせないのだろう。
昔から、変わらない。
桐谷は手に持った上着を見た。
さっき本人から預かったものだ。
続いて、店から出てきた綾瀬美月に目を向ける。
彼女も藤崎が囲まれていることには気づいたらしい。
だが、助ける気配はなかった。
……本当に、助けないんだな。
桐谷は笑いをこらえた。
飲み会の席で藤崎の話を振った時、彼女はそ知らぬ顔をしていた。
けれど、反応がまったくなかったわけではない。
先ほど会計付近で二人が話していた様子も、遠目に見ていた。
詳しい事情は知らない。
それでも、藤崎が話していた相手は、おそらく彼女だろう。
あの男が、女性のことであれほど回りくどい話をするのは珍しい。
さて。
どう助けたものか。
桐谷が周囲を見回すと、少し離れた場所に相澤がいた。
「お疲れ様。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「お疲れ様です、桐谷先生」
「困ってる上司を助けてやってくれない?」
桐谷が藤崎の方を示すと、相澤はそちらを見た。
「ああ……なるほど」
状況を理解したらしい。
「教授から連絡が入ったことにして、呼んできてもらえる?」
「分かりました」
返事は早かった。
余計な質問もない。
……助かるな。
相澤はすぐに女性たちの輪へ向かった。
「すみません、藤崎先生。教授から連絡が入ってます」
その声に、女性たちの注意が少し逸れた。
藤崎が相澤の方を向いたのを確かめて、桐谷は綾瀬美月へ歩み寄った。
彼女はちょうど、店の前でタクシーを拾おうとしていた。
「綾瀬、タクシー?」
「はい」
「じゃあ、これ」
理久から預かっていた上着を、その腕に押し込む。
「え?」
「届け物」
「誰にですか」
「本人に」
美月が怪訝そうな顔をしたところで、店の前にタクシーが停まった。
桐谷は後部ドアが開くのを待ち、美月の肩を軽く押した。
「乗って」
「え、あの」
「屈んで」
「はい?」
戸惑いながらも、美月は乗り込んだ。言われるまま、座席の奥で身をかがめる。
桐谷は開いたドアの脇に立ったまま、運転手と目を合わせ、片手で少し待つように合図した。
まだ、出発してもらっては困る。
美月を乗せることには成功した。
あとは、もう一人。
桐谷は店の入口へ視線を戻した。
予想どおりだった。
藤崎理久は、こういう時でも感じがいい。相手に恥をかかせず、笑顔のまま断ろうとする。
それが余計に、相手を諦めさせないのだろう。
昔から、変わらない。
桐谷は手に持った上着を見た。
さっき本人から預かったものだ。
続いて、店から出てきた綾瀬美月に目を向ける。
彼女も藤崎が囲まれていることには気づいたらしい。
だが、助ける気配はなかった。
……本当に、助けないんだな。
桐谷は笑いをこらえた。
飲み会の席で藤崎の話を振った時、彼女はそ知らぬ顔をしていた。
けれど、反応がまったくなかったわけではない。
先ほど会計付近で二人が話していた様子も、遠目に見ていた。
詳しい事情は知らない。
それでも、藤崎が話していた相手は、おそらく彼女だろう。
あの男が、女性のことであれほど回りくどい話をするのは珍しい。
さて。
どう助けたものか。
桐谷が周囲を見回すと、少し離れた場所に相澤がいた。
「お疲れ様。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「お疲れ様です、桐谷先生」
「困ってる上司を助けてやってくれない?」
桐谷が藤崎の方を示すと、相澤はそちらを見た。
「ああ……なるほど」
状況を理解したらしい。
「教授から連絡が入ったことにして、呼んできてもらえる?」
「分かりました」
返事は早かった。
余計な質問もない。
……助かるな。
相澤はすぐに女性たちの輪へ向かった。
「すみません、藤崎先生。教授から連絡が入ってます」
その声に、女性たちの注意が少し逸れた。
藤崎が相澤の方を向いたのを確かめて、桐谷は綾瀬美月へ歩み寄った。
彼女はちょうど、店の前でタクシーを拾おうとしていた。
「綾瀬、タクシー?」
「はい」
「じゃあ、これ」
理久から預かっていた上着を、その腕に押し込む。
「え?」
「届け物」
「誰にですか」
「本人に」
美月が怪訝そうな顔をしたところで、店の前にタクシーが停まった。
桐谷は後部ドアが開くのを待ち、美月の肩を軽く押した。
「乗って」
「え、あの」
「屈んで」
「はい?」
戸惑いながらも、美月は乗り込んだ。言われるまま、座席の奥で身をかがめる。
桐谷は開いたドアの脇に立ったまま、運転手と目を合わせ、片手で少し待つように合図した。
まだ、出発してもらっては困る。
美月を乗せることには成功した。
あとは、もう一人。
桐谷は店の入口へ視線を戻した。