落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
しばらくの沈黙。

 劇場の外で、どこかの吹奏楽部が音合わせをしているのか、遠くからトランペットの音がかすかに聞こえてきた。

 そんな中で、蓮がようやく口を開く。

「……気にしてる」

「え」

「おまえのことは、気にしてる」

 まるで観念したみたいに、低く、はっきりと。

 小春の心臓が止まりそうになる。

「そ、それって」

「勘違いするな」

「するよ!」

「するな」

 思わず声が大きくなってしまって、劇場の壁に少しだけ響く。

 蓮は深くため息をついた。

「おまえは放っておくと無茶をする。突っ走る。自分のことは後回しで、人のことばかり見る」

「……」

「だから気になる。それだけだ」

 それだけ。
 そう言われたのに、小春の胸はなぜかちっとも静かにならなかった。

「でも」

「でも?」

「それって、優しいってことだよね」

「は?」

「蓮くん、ちゃんと見てくれてるんだなって」

 小春がふわっと笑うと、蓮は一瞬だけ言葉を失う。

 それから、どこかあきらめたみたいに肩の力を抜いた。

「おまえ、ほんとにずるいな」

「えっ、なんで」

「そうやって人の調子を狂わせる」

「わたし何もしてないよ?」

「してる」

 断言されて、ますますわからなくなる。

 けれど、そのときだった。

 小春の足元に置いていた台本が、ぱさっと音を立てて落ちた。
 同時に、はさんでいたプリントが何枚も舞台の上に散らばる。

「あっ」

「おい」

 あわててしゃがみこもうとした瞬間、蓮も同じように手を伸ばした。

 指先が、触れる。

 ほんの一瞬。
 だけど、びっくりするくらい熱かった。

 小春がはっとして顔を上げると、すぐ近くに蓮の顔があった。
 思っていたよりずっと近くて、息が止まりそうになる。

 黒い瞳。
 まっすぐで、静かで、それなのに今は少しだけ揺れている。

 だめだ。
 近い。ほんとに近い。

「……蓮くん」

「……白雪」

 名前を呼ばれるだけで、胸の奥がぎゅっとなる。
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