落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
時間が止まったみたいだった。
 あと少し動いたら、何かが変わってしまいそうで、怖いのに、目をそらしたくない。

 そのとき。

 ぐうぅぅぅ、と、場違いなくらい元気な音が鳴った。

 沈黙。

 小春は、ゆっくり自分のおなかを見下ろした。

「……ごめん」

「……っ」

 蓮が顔を伏せる。
 肩が、少し震えていた。

「え、今、笑った?」

「いや」

「笑ったよね?」

「笑ってない」

「絶対笑った!」

「おまえが悪い」

「なんで!?」

 さっきまでの空気が一気にほどけて、舞台の上に笑い声がこぼれる。

 なんだろう。
 すごく恥ずかしいのに、なんだか安心した。

 蓮も口元を押さえたまま、少しだけ笑っている。そんな顔、今日初めて見たかもしれない。

「……今日はもう終わりにするか」

「そうだね」

 小春が散らばったプリントを集めていると、蓮がひとつ拾って差し出してくれる。

「ほら」

「ありがとう」

「あと、これ」

 そう言って蓮がポケットから取り出したのは、小さな包装のお菓子だった。

「えるにもらったやつの残り」

「えっ、くれるの?」

「おまえ、また途中で腹鳴らせるだろ」

「ひどい」

「事実だ」

 でも、その言い方はどこかやさしい。

 小春はお菓子を受け取って、思わず笑った。

「蓮くんって、ほんとはすごく優しいよね」

「……うるさい」

「照れてる?」

「違う」

「また耳赤いよ」

「白雪」

「はい」

「それ以上言うと帰す」

「もう帰る時間だよ」

「そうだったな」

 ふたりで顔を見合わせて、少しだけ笑う。

 劇場を出るころには、外はもう夕焼けから夜に変わりかけていた。
 校舎の窓にひとつずつ明かりが灯って、風は昼より少しだけ涼しい。
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