落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「どうして、何もわかってくれないの」

 低く落とした声が、客席までまっすぐ飛んでいく。

「わたし、ずっと平気なふりしてた。ひとりでも大丈夫だって、置いていかれても平気だって……そう思わないと、立ってられなかったから」

 一歩、前へ出る。

「でも、本当は」

 そこで言葉を切る。
 呼吸だけが震える。指先だけが、ほんの少し、頼りなく揺れる。

「行かないでって、言いたかった……っ」

 最後のひと言といっしょに、声をかすかに崩した。

 沈黙。

 だれも、すぐには動かなかった。
 空気が、わたしのつくった感情に飲まれているのがわかる。

 よし。

「……っていう感じでどうかな」

「切り替え早っ!」

 後ろから飛んできた声に、わたしはぺろっと舌を出した。

「えへへ」
 
「えへへじゃないでしょ今の!」

「鳥肌立ったんだけど」

「即興であれ?」

「やば……」

 ざわめきが広がる。
 でも、桜井くんだけは黙ったままだった。

 わたしがそっとそちらを見ると、彼は数秒遅れて口を開く。

「今の、既存の台本か?」

「ううん。今つくった」

「即興?」

「そう」

「……そうか」

 それだけ言って、桜井くんは目を細めた。
 驚いているみたいなのに、顔にはあまり出さないタイプらしい。

「なら、もうひとつ聞く」

「うん?」

「おまえ、自分が演じるだけじゃなくて、人に演技をつけられるのか」

「できるよ」

「全員?」

「全員」

 言い切ると、あちこちで息をのむ気配がした。

 大きく出すぎたかな、とは思う。
 でも、できるものはできるのだ。

「人にはそれぞれ、いちばん映える見せ方があるから。声の置き方とか、立ち方とか、目線の流し方とか。そこを見つければ、ちゃんと変わるよ」

「たった三週間で?」

「三週間もあるなら十分だよ」

 その瞬間、劇場の扉が勢いよく開いた。

「大変、大変、大変!」

 飛び込んできたのは、衣装担当の桃園えるちゃんだった。
 首からメジャーをさげて、ふわふわの巻き髪を揺らしながら走ってくる。

「A組がもう次の公演ビジュアル出してる! しかも超本気! 背景セットも衣装も気合い入りまくり!」

「うわ、最悪……」

「勝てるわけないじゃん……」

 また空気が沈みかける。

 だめだ。このままじゃ、せっかく少し上がった気持ちがまた落ちる。
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