落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「終わった……」
 
「もう無理じゃん」

「予算削減って話もほんとなんでしょ」

 その瞬間だった。

「終わってないよ」

 ぱん、と乾いた音が劇場に響く。
 わたしが両手を打ち鳴らした音だ。

 ざっと視線が集まる。
 ちょっとだけ足がすくみそうになるけど、ここで引いたらだめだ。

「主演がいなくなっても、演技が苦手でも、三週間しかなくても、終わりって決まったわけじゃないでしょ」

「……誰」

「え」

 前のほうにいた男子のつぶやきに、わたしはぱちぱちと瞬きをした。

「白雪さんだよ」

「名前は知ってる」

「よかった」

 ほっとして胸をなでおろしたら、近くで誰かが小さく笑った。

 うう。今のはちょっと恥ずかしい。
 でも気にしない。たぶん、こういうのは勢いが大事だ。

「とにかく、一回わたしにやらせて」

「何を?」

「みんなを勝たせること」

 しん、と静まり返る。

 自分で言っておいて、すごく大きく出た気もする。
 でも、言葉にしないと始まらない。

「わたし、演技だけは得意だから」

「だけって」

「ほかはちょっと自信ないかも」

「そんな堂々と言うこと?」

 また笑いが起きる。
 さっきまでの絶望だけの空気より、ずっといい。

 そのとき、劇場の中央付近に立っていた男子が、静かにこちらを見た。

 黒髪。すっきりした目元。
 背筋まできっちりまっすぐで、いかにも近寄りがたい。
 でも、その目だけは冷たいというより、ちゃんと見極めようとしているように見えた。

 桜井蓮。
 一年C組の演出担当。

「白雪」

「はい」

「おまえ、何ができる」

 まっすぐ問われて、わたしは息を吸う。

「演じること」

「それだけで、このクラスを勝たせるって?」

「うん」

「根拠は」

「あるよ」

 わたしはステージの上にのぼった。
 照明は落ちたまま。音もない。小道具もない。
 だけど、それで十分だった。

「少しだけ、静かにしてて」

 劇場の空気が止まる。

 わたしは目を閉じて、一度だけ深呼吸をした。
 胸の奥に、誰かの感情を落としていく。苦しい。悔しい。伝わらない。ほんとは泣きたい。でも泣いたら負けだと思ってる。そんな気持ちを、少しずつ体になじませる。

 目を開けた瞬間、世界が変わった。
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