落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
「俺はもう知ってる」

 低く、でもはっきりと蓮が言う。

「惹きつけられてるのは、俺だけじゃないってこともな」

 一瞬、空気が止まった。

「蓮くん」

 小春が小さく名前を呼ぶ。

 そんなこと、こんな真っ直ぐ言うなんて思わなかった。

 一ノ瀬は少しだけ目を見開いて、それから笑った。

「へえ。やっぱりいいな、桜井」

「何がだ」

「そういうところ」

 一ノ瀬はそれ以上は何も言わず、ひらっと手を振った。

「じゃあ、僕はもう行くよ」

「待って」

 小春が思わず呼び止める。

 一ノ瀬が振り返る。

「香坂さんのこと」

「うん」

「ちゃんと向き合ってあげて」

 その一言に、一ノ瀬の笑みが少しだけ止まった。

「……君に言われるんだ」

「だって」

 小春はまっすぐ言う。

「大事に思ってるの、すごく伝わったから」

 数秒の沈黙のあと。

 一ノ瀬は小さく息を吐いて、今度こそ少しだけ本当に笑った。

「考えとく」

 それだけ残して、廊下の向こうへ去っていく。

 姿が見えなくなったあと、小春はほっと息をついた。

「なんか、疲れた……」

「おまえな」

 隣で蓮が深いため息をつく。

「今の最後、わざとか」

「え?」

「ちゃんと向き合ってあげて、ってやつ」

「思ったこと言っただけだよ」

「……天然か」

「なんで?」

「また無自覚に人の心を動かしてる」

「そんなことないって」

「ある」

 きっぱり言い切られて、小春はきょとんとする。

 すると蓮はじっと小春を見たあと、小さく首を振った。

「まあいい」

「よくない顔してる」

「よくなくていい」

「ええっ」

「稽古行くぞ」

 そう言って歩き出した蓮の後を、小春はあわてて追いかける。

 横に並んだとき、蓮がぽつりと落とした。

「でも」

「うん?」

「さっきのは、少しだけ助かった」

「何が?」

「おまえがちゃんと線を引いたこと」

 小春はその言葉を聞いて、少しだけ目を丸くしたあと、ふわっと笑った。

「当たり前だよ」

「……」

「だって、わたしが見たいのは」

 言いかけて、はっと止まる。

「何だよ」

「な、なんでもない!」

「今のは気になるだろ」

「言わない!」

「白雪」

「やだ!」

 早足で逃げるように先へ行くと、後ろで蓮が小さく笑った気配がした。

 その笑い声だけで、胸がまた甘く鳴る。

 まだ答えは言えない。
 でも、自分の心がどこへ向かっているのかは、少しずつわかり始めていた。
< 44 / 44 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

透花の毎日。

総文字数/2,070

実用・エッセイ(その他)7ページ

恋の花火がきえる時。

総文字数/50,917

恋愛(純愛)90ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
大好きな光輝へ 私に愛を教えてくれて、ありがとう。 ツンデレで、不器用で、時には優しい そんな君のことが、とっても大好きでした。 光輝と笑った人生、絶対に忘れないからね。 生まれ変わっても、幸せでいてください。 私は、光輝の命のために生きるよ。 生きていてくれて、ありがとう。 私たちは、2人で一つの、最高で、最強だから! そして、さようなら。 天国に行っても、忘れないでね! 君とみた花火は永遠の宝物です。 ずっとずっと、大好きでした。 理紗より * 私はね、地球は毎日回ってきて、 明日も必ずくるものだと思っていたよ。 訪れるかわからない日々を、 君はどうやって待っていたの? * ────『恋の花火がきえる時。』 私はキミを、救えなかった。 たとえヒロインになれないとしても、 身分差以上の恋はしてみたい。 start▷2026/9/25〜 final▷2026/11/1
今宵、黒蝶を溶かして。

総文字数/10,823

恋愛(逆ハー)25ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
夜の街は、冷たかった。 親からも見捨てられ、絶望に浸っていた私に。 1人の悪魔が、やってきました──。 * ─────『今宵、黒蝶を溶かして。』 誰よりも大切な君に、最大の愛を。 ※愛されすぎ注意です    

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop