落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
そのとき。

「へえ」

 またしても、聞き覚えのある声が廊下に落ちる。

 ふたりが同時に振り向く。

 少し離れた窓際に、腕を組んで立っていたのは一ノ瀬カイだった。

「ずいぶん仲いいね」

「一ノ瀬くん……」

 小春が名前を呼ぶと、一ノ瀬は軽く笑う。

「盗み聞きするつもりはなかったんだけど」

「十分してるだろ」

 蓮の声が冷える。

 一ノ瀬は肩をすくめる。

「廊下でこんなにわかりやすく空気つくってたら、嫌でも気づくよ」

「言い方」

「事実じゃない?」

 その目が、蓮から小春へ移る。

「香坂に何か言われたみたいだね」

「……聞いてたの?」

「少しだけ」

「最低」

 小春がきっぱり言うと、一ノ瀬は逆に少し楽しそうな顔をした。

「その反応、好きだな」

「軽く言わないで」

「軽くないよ」

 一ノ瀬は窓際から離れて、ゆっくりこちらへ歩いてくる。

「ルミナは本気だから、たぶんこれからも君に刺さることを言う」

「……」

「でも、あれはあれで必死なんだ」

 その声は意外なくらい静かだった。

「わかってる」

 小春が答えると、一ノ瀬は少しだけ目を細める。

「へえ」

「香坂さんが一ノ瀬くんを大事に思ってるのは、ちゃんと伝わったから」

「……そっか」

 一ノ瀬は数秒だけ黙ったあと、ふっと笑う。

「やっぱり君、変わってるね」

「またそれ」

「褒めてる」

「聞こえない」

 そのやりとりの横で、蓮の空気がじわっと冷えていくのがわかる。

「おい」

「何、桜井」

「馴れ馴れしくするな」

「してないよ」

「してる」

 ぴしゃりと言い切られて、一ノ瀬が少しだけ目を丸くする。

 それから、面白そうに笑った。

「ほんとにわかりやすいね」

「黙れ」

「でも安心した」

「何が」

「昨日よりずっと感情が顔に出てる」

 一ノ瀬の視線はまっすぐ蓮に向いていた。

「それだけ本気ってことだろ」

「……」

「なら、君も気をつけたほうがいい」

「どういう意味だ」

「白雪小春は、たぶん思ってるよりずっと人を惹きつけるから」

 その言葉に、蓮の目が細くなる。

 小春は胸の奥が少しだけざわついた。

 一ノ瀬の言い方は、いつも何かを知っているみたいで落ち着かない。
< 43 / 44 >

この作品をシェア

pagetop