落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
だけど、そのとき。

「楽しそうだね。一年C組」

 劇場の入り口から落ちた声に、空気がぴたりと止まった。

 振り向くと、そこにいたのはA組の制服を着た男子だった。
 長い脚を気だるげに組むように立って、整いすぎている顔でこちらを見ている。

 ただ立っているだけなのに、妙に目を引く。
 舞台照明がなくても、そこだけスポットライトが当たってるみたいだった。

「一ノ瀬カイ……」

 誰かが息をのむ。

 学園トップクラスの人気を誇る、A組の看板俳優。
 その一ノ瀬くんは、わたしを見て、ふっと笑った。

「へえ。君が噂の白雪小春?」

「噂?」
 
「さっきの即興、少し聞こえた」

 ぞくっとした。
 褒められたわけでもないのに、試されている気がする。

「それで」

 一ノ瀬くんは、ゆっくり目を細める。

「本当に、落ちこぼれクラスを勝たせるつもり?」

 劇場の空気が、ぴんと張りつめる。

 わたしはお菓子を持ったまま、彼を見返した。

「そのつもりだよ」

「面白い」

 一ノ瀬くんは笑う。
 きれいなのに、少し意地悪な笑い方だった。

「じゃあ、期待してる。せいぜい、本番までに壊れないでね」

 そう言い残して、彼は去っていく。

 残された静けさの中で、わたしはぎゅっと袋を握った。

 挑発。
 完全に、挑発だ。

「……上等じゃん」

 小さくつぶやくと、すぐ近くで桜井くんが聞き返した。
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