その青を描く ③
俺はバイトと店の仕事で明け暮れて、いつ寝てるのかも分からないくらいだった。そのうちに戸田のことも気にしなくなって、他の従業員に敢えて聞くこともしなかった。でも、数カ月に一回とか、そんなペースで噂されてるのを耳にしていた。
それもいつの間にか途絶えて、二年の月日が経っていた。
その頃、柚月は会社のことで少し悩んでいたようで、その日も俺の仕事が終わったら、愚痴を聞いてくれと言われていた。何も問題が起きなければ定時には上がれるけど、一部の客が悪態ついていて、何時に上がれるか予想が出来なかった。大声で注文するし、キャストの手に札を握らせて、しきりに口説いていた。
一旦は注意を促したけど、客は聞いてないし、キャストも任せろというような顔だった。まぁ、他のキャストより経験はあるから、俺はそこで引いて、他の仕事をしながら、目を光らせていた。
しばらくして、悪態の客が席を立った。その時には上機嫌で、キャストの肩を抱いて、会計に向かっていた。ほっとした直後に、颯爽と一人の男がやってきて、客とすれ違った。あれは完全にわざとだった。入ってきた男ではなく、客のほうが肩をぶつけにいった。
しまった、と思ったときには遅くて、客のほうが因縁をつけていた。柄の悪さをもろに出して、男を睨みながら詰め寄っていく。でも、男は身じろぎひとつせずに、相手を眺めているようだった。ここで止めたら事態は大きくなる。警察沙汰にはしたくないから、一発入ったところで止めるしかない。
そう思ったときに、相手の拳が男に向かっていった。でも、男は軽く避けた。しかし、客はすぐに脛を蹴ろうとして、逆に足払いをかけられていた。
「今のはお前が悪い」男はそう言って、ポケットから煙草を出して、口の端にくわえた。火を点けてから、煙草の箱を軽く握ったまま、人差し指を少し上げ、確認するように店内の隅を示した。そして——
「全部揃ってる。あとはお前次第だ」と男は言って、煙草の煙を吹きかけるように吐き出した。
客は「くそが、生意気なんだよ」と言って、俺のほうを向くと「おい、会計しろ」と急かした。カウンターに立って、少しため息が出た。計算をしながら、様子を窺うと「この店、客層悪いじゃないの」と言った。どの口がと思ったけど、金はしっかり払ってくれたし、問題にはなりかけたけど、二度と来ないだろうなと思った。
会計を済ませたあとで、男を席へ案内しながら、どのキャストをつけるか、頭の中で選んでいた。
それもいつの間にか途絶えて、二年の月日が経っていた。
その頃、柚月は会社のことで少し悩んでいたようで、その日も俺の仕事が終わったら、愚痴を聞いてくれと言われていた。何も問題が起きなければ定時には上がれるけど、一部の客が悪態ついていて、何時に上がれるか予想が出来なかった。大声で注文するし、キャストの手に札を握らせて、しきりに口説いていた。
一旦は注意を促したけど、客は聞いてないし、キャストも任せろというような顔だった。まぁ、他のキャストより経験はあるから、俺はそこで引いて、他の仕事をしながら、目を光らせていた。
しばらくして、悪態の客が席を立った。その時には上機嫌で、キャストの肩を抱いて、会計に向かっていた。ほっとした直後に、颯爽と一人の男がやってきて、客とすれ違った。あれは完全にわざとだった。入ってきた男ではなく、客のほうが肩をぶつけにいった。
しまった、と思ったときには遅くて、客のほうが因縁をつけていた。柄の悪さをもろに出して、男を睨みながら詰め寄っていく。でも、男は身じろぎひとつせずに、相手を眺めているようだった。ここで止めたら事態は大きくなる。警察沙汰にはしたくないから、一発入ったところで止めるしかない。
そう思ったときに、相手の拳が男に向かっていった。でも、男は軽く避けた。しかし、客はすぐに脛を蹴ろうとして、逆に足払いをかけられていた。
「今のはお前が悪い」男はそう言って、ポケットから煙草を出して、口の端にくわえた。火を点けてから、煙草の箱を軽く握ったまま、人差し指を少し上げ、確認するように店内の隅を示した。そして——
「全部揃ってる。あとはお前次第だ」と男は言って、煙草の煙を吹きかけるように吐き出した。
客は「くそが、生意気なんだよ」と言って、俺のほうを向くと「おい、会計しろ」と急かした。カウンターに立って、少しため息が出た。計算をしながら、様子を窺うと「この店、客層悪いじゃないの」と言った。どの口がと思ったけど、金はしっかり払ってくれたし、問題にはなりかけたけど、二度と来ないだろうなと思った。
会計を済ませたあとで、男を席へ案内しながら、どのキャストをつけるか、頭の中で選んでいた。