その青を描く ③
 それから、今日は一人、次に来たときには二人となって、繰り返されるうちに、俺は店の攻略でもされてるのかと思った。でも、若いやつと一緒に居るときの戸田は、どこか雰囲気が違って見えた。まぁ、世の中には色んな形があるから、仮に二人がそうだとしても、全く問題はない。むしろ、大人しく飲んでくれて、金払いもいいし、店側としては太客だから逃したくないのが正直なところだった。

 いつからか若いほうが来なくなって、戸田のほうもあまり見かけなくなった。年齢は分からないけど、見た目で言えば、遊び尽くして、仕事に向かう段階なのかもしれない。上司も『男は三十からだ』とか言ってたし、俺も店を持ちたいから、金の使い道を考えようと思った。

 俺は翌週から隙間バイトで食事の配達をした。その頃の柚月は就職してから、覚えることがいっぱいだと笑ってた。でも、住む場所を何度か変えていた。俺も盾にはなったけど、そうする以外の方法は見つからなかった。

 やがて月日が流れて、配達のバイトに慣れたころだった。

 質素な四階建ての集合住宅の脇へ自転車を停めて、携帯を確認しながら、部屋に向かった。ドアの前で番号を見てから、チャイムを押して、一歩後ろに下がった。
 物音もせず、いきなりドアが開いたから、面を食らって、少し顎を引いた。すぐ顔を戻すと、どこかで見たような顔があった。

「どうも、千三百円です」そう言いながら、内心では『どこだっけ……』と探り出していた。

 相手は男性で、俺よりは背が低いけど、結構モテてそうな顔だった。でも、薄っすら髭が生えてるし、髪も寝癖だらけだ。服装も無頓着で、しかも裸足だ。金も持ってなさそうだし、女すら居なさそうだ。そう思っていたら、男が一枚の札を出して、口を開いた。

「……釣りはいい」

 そこでようやく、戸田だと気づいた。こんな所に住んで、意外と倹約家なのかと思った。

「ありがとうございます、じゃ、失礼します」

「お前、バイトしてんだ」

 向こうも気づいていたようで、呼び止められてしまった。別にバイトすることは店で禁止されてはいない。でも、なぜか戸田の物言いに、悪いことをしてるような気分になった。

「いや、まぁ、金貯めたいんで」嘘ではないけど、少しうろたえた。

「ふーん……なんで」興味のなさそうな声なのに、真っ直ぐな目をしていた。

「……店を、持ちたいんで」俺は言いながら、なんでこんなことまで言ってるのかと思っていた。

「ふーん……、融資が必要になったら、紹介してやるよ。いい銀行」そう言って戸田はドアを閉めた。

「あざっす……」俺はドアが閉まる間際に言ったけど、聞こえてる顔が見えた気がした。

 そこで俺は少し考えながら自転車へ向かった。質素な住宅で倹約家で、店に来たら金回りはいい。しかも融資をしてくれる銀行まで知ってる。どんな職業なのか見当つかないけど、結構顔が広いみたいだ。まぁ、いつかそういう日がくるかもしれないな、と思って、再び配達へ向かった。
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