君のいない明日を、今日。

ホームルーム

校門をくぐり、昇降口へ向かう。

下駄箱で靴を脱ぎ、上履きに履き替えていると、

「愛、おはよ」

後ろから、聞き慣れた声がした。

「……おはよ」

振り返らずに、短く返す。

「なんだ? 今日はご機嫌ななめかー?」

「うるさい」

小さく返して、靴をしまう。

顔を上げた瞬間、目の前にいる彼と目が合った。

――こうき。

いつもと変わらない笑顔。

いつもと変わらない声。

それなのに。

どうしてだろう。

急に、目頭が熱くなった。

「……っ」

泣きそうになる。

こんなところで泣くわけにはいかない。

私はこうきから逃げるように、鞄を持って教室へ走った。

「おい、愛?」

後ろから呼ばれた声は、聞こえないふりをした。

教室に着いて、席に座る。

しばらくするとチャイムが鳴った。

その直後、後ろの扉がゆっくり開く。

「……失礼しまーす」

そーっと顔を覗かせたのは、りほだった。

「りほ」

「……!」

私に気づいたりほが、ほっとしたように笑う。

「大丈夫だよ。近藤先生、まだ来てない」

「えー!! 珍し! ラッキー! セーフ!」

小声で叫びながら、りほは急いで教室に入ってくる。

そして私の前の席に座った。

それから五分ほど経ったころ。

教室の前の扉が開き、学年主任の先生が入ってきた。

「今日は近藤先生が風邪でお休みです。このあと一限の数学まで静かに待ってるように。」

そう言って学年主任の先生は足早に出て行った。

教室が一気にざわつく。

「えー、マジ?」

「ラッキーじゃん」

そんな声が飛び交う中。

ふと、背中に視線を感じた。

振り返らなくても分かる。

こうきだ。

後ろの席から、何か言いたげにじーっとこっちを見ている。

「……なに」

短く返す。

「べつにー」

そう言いながらも、視線はこっちを向いたまま。

すると、

「なになにー? 夫婦喧嘩ですかー?」

こうきの隣に座っている水原が、面白そうに口を挟んできた。

「違うから」

私はそれだけ言って、席を立った。

「えー、彼女が朝から不機嫌なんです〜」

「お前、余計なこと言うなって!」

背中越しに、こうきと水原のやり取りが聞こえる。

私はそのまま教室を出た。

廊下を歩いていると、後ろから足音が近づいてきた。

「愛ー」

りほだった。

「なに?」

「こうきに優しくしてやんなよー」

「……」

「いい彼氏じゃん?」

私は少しだけ黙ってから、前を向いたまま答える。

「……いい彼氏だからだよ」

「ん?」

りほが不思議そうに首を傾げる。

「どういう意味?」

「別に」

それ以上は、何も言わなかった。
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