氷の青薔薇皇帝の恋煩い
「もっと触れても良い?」

 緊張してアレクは喉を鳴らす。

「大丈夫、唇にはキスしないから」

 のそりと起き上がった皇帝陛下が、アレクを組み敷く。その間もずっと目はアレクの双眸を見つめ続けている。顔が近づいてきて、唇以外の場所に軽いキスの雨を降らせる。唇は顔から顎へ、そして首筋へと動く。

「ひゃっ」

 男性経験がなくそんなことをされるのが初めてなアレクは、思わず声を上げてしまい、慌てて口を手で押さえる。
 皇帝陛下はすぐに首筋から顔を離して覗き込んでくる。

「怖かった?」

 両手で口を塞ぎながら、アレクはふるふると首を横に振る。
 美貌が安堵の笑みを湛え、指先で先ほど口づけた首筋に触れる。

「心配しなくても大丈夫だよ。脱がしたりしないから。その代り、私の身体を見て欲しい」

 そう言うと、アレクの足を挟んで膝立ちする皇帝陛下が、寝衣を脱いだ。細身だがしっかりと引き締まった筋肉が隆起し、腹が割れた彫刻のような美しい肉体を見せた。更に、下衣も下着ごと脱ぐ。
 そこには血管がぼこぼこ浮き出て、目を見張るほどの太く長いアレが臍まで反り上がっていた。

(な、何アレっ!)

 騎士の宿舎で何回か勃起した同僚のアレを見たことはあるが、その太さは彼らの二回りはあろうかというほど太い。噂では、セルフォードの皇帝レイジェルは不能と諸国に広がっている。一体誰が不能なのか。やる気満々ではないか。

(無理っ! 絶対無理っ! 引き裂かれるっ!)

「私の身体はリアラの物だよ。だから、あなたの許可なくあなたを穢したりしない。だけどね、男は好きな女の子を見てると、我慢できなくなるんだ。だから、少しだけ甘えさせてもらいたい」

 つまり、やらないということだろうか。それはありがたい。あんな凶悪なモノを無理矢理ねじ込まれるのかと思うと、震え上がって恐怖で頭が真っ白になるだろう。
 では、甘えたいの意味は何だ?
 アレクの脳裏は疑問符だらけで、ただただ彼のアレを見て慄いている。
 皇帝レイジェルが再びアレクに覆いかぶさって、首筋に顔を埋めてくる。

「好きだよ。あなたの全てを愛してる。……ああ、ダメだ、我慢できない。ずっとしてなかったからすぐに出してしまいそうになる」

 片腕をアレクの顔の横に付き、もう片手を下半身の方へ伸ばしている。首筋に頬を寄せた近くでは、息遣いが荒くなっていく。

 自慰だ。

 むさくるしい同僚たちが寝泊まりする宿舎で一緒に寝起きしていたのだ。不可抗力で、アレクは男性の自慰を見たこともある。

「こんな浅ましい私を見たくはないよね。でも、あなたがいないと勃たないんだ」

(なるほど、だから身代わり(オレ)が必要だったのか)

「お願いだから、嫌いにならないで欲しい。あなたがいなくなったら、私は眠ることもできないんだ」

(それはかなり重症だ)

 アレクは軽い眩暈に襲われ、セルフォード皇帝の秘密を知ってしまった。この契約には期間を設けていない。アレクも先の見えないことだったから、期間については話さなかった。レイジェルからも期間については何も触れられていない。
 もし、仮にアレクの目的が達成されたら解放してもらえるのだろうか。
 とりあえず、リアラという人物について知る必要がありそうだ。
 アレクの足の上では、手の動きが速まっていた。

「くっ」

 身体を汗ばませながら、苦し気にレイジェルが呻いたかと思うと、びゅっと飛沫がアレクの顔に飛んできて頬を汚す。アレクは顔を引き攣らせた。
 それを見た皇帝陛下が慌てて、脱ぎ捨てた自分の寝衣を掴み上げた。

「ああっ、すまないっ、綺麗な顔を汚してしまったね」

 謝りながら、丁寧にアレクの顔に付いた汚れを拭う。それ以外にも、アレクの寝衣に付着した白濁を拭っていった。どうやら随分溜まっていたらしい。アレクの腹の上の寝衣に大量の液体が水たまりを作っている。皇帝陛下は自らが汚した物を自らの手で拭い去ると、汚れた寝衣を床にぽいっと捨てた。

「嫌な思いをさせてしまったね。でも、これをしておかないと、あなたを襲いそうになるから。大事なことなんだよ」

 レイジェルはアレクの傍らに横になると、身体を密着させて腕枕をし、ゆるく腕を回してくる。

(これで終わり?)

 夜伽相手を探していると言っていたから、てっきり最後まで抱かれるのかと思っていた。だから、処女を捨てる覚悟をしていたというのに、レイジェルはアレクの寝衣すら脱がさなかった。
 アレクの頬に軽く口づけ、蕩けるような甘い微笑みで囁く。

「ああ、まだ信じられないな。あなたがこんなにも近くにいてくれる。会えない間、あなたのことが気がかりで、何日も眠れない夜を過ごしたよ。あなたのおかげで今日は眠れそうだ、ありがとう、リアラ」

 語尾が小さくなり、やがてすやすやと規則正しい寝息が聞こえてくる。アレクを腕に納めて皇帝陛下が無防備な寝顔を曝していた。その顔をちらりと視線だけで窺うと、酷くやつれていた。言葉の通り何日も眠れていなかったのだろう。そう思うと気の毒になる。

 それにしてもなんて美しい顔なのだろう。アレクの元主も秀麗な貌をしているが、それでも比較にならないほど人間離れした麗しさだ。危うく立場を失念しそうなほど、惚れ惚れしてしまう。加えて無防備だ。アレクが暗殺者なら、簡単に息の根を止めれそうなほど警戒心が薄い。

 翌朝アレクが目覚めると、寝台には皇帝陛下の姿はなかった。



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