魔法より、君に恋をする。
「昨日よりずっといい」

 訓練終了後、ルシアンが記録板を確認しながら言った。

「連携評価、上」

「最高は?」

「まだ」

「厳しい」

「二日で最高になったら、僕の仕事がなくなるよ」

「じゃあ明日」

「僕の仕事を奪う気?」

「勝ちたいので」

「はいはい」

 六人で水を飲みながら休んでいると、レオンハルトが記録板を覗き込んだ。

「失点は?」

「かなり減った。ただ、アレンとカイルの位置被りが三回」

「こいつが寄ってくんだよ」

「お前が寄っている」

「また始まった」

 セシルが笑う。

「放っておこう」

 ノアが言う。

「賛成」

 リリアも頷いた。

「おい!」

 アレンの声を聞き流しながら、リリアは水筒の蓋を閉じた。

 その時。

 ふと、視界の端に何かが見えた。

「……?」

 演習場の向こう。

 結界の外。

 木立の間。

 黒いもの。

「リリア?」

 ノアが呼ぶ。

「今、誰かいた?」

「どこ?」

「あそこ」

 指を差す。

 全員がそちらを見る。

 誰もいない。

「人?」

 セシルが聞く。

「たぶん」

「学院の生徒じゃなくて?」

「分からない」

 リリアは目を凝らした。

 木々が風に揺れている。

 それだけ。

「見に行く」

 立ち上がる。

「待て」

 カイルがすぐに止めた。

「でも」

「全員で行く」

 その一言に、リリアは口を閉じた。

「……うん」

 六人で結界の端へ向かう。

 ルシアンも後ろからついてきた。

「この辺?」

「もう少し右」

 リリアが先導する。

 珍しく迷わない。

 目印になる大きな木が見えていたからだ。

「ここ」

 結界の向こう側。

 地面に、何かが落ちていた。

 黒い羽。

「鳥?」

 セシルがしゃがみ込む。

「触らないで」

 ルシアンが止める。

 魔力を薄く伸ばし、羽の周囲を調べる。

「……魔力が付着してる」

「何の?」

 レオンハルトが聞く。

「分からない」

 リリアも少し離れた場所から羽を見る。

 黒い。

 ただの羽に見える。

 なのに。

「気持ち悪い」

 自然に言葉が出た。

 アレンがすぐリリアを見る。

「どんな感じだ」

「黒い石にちょっと似てる。でも、もっと薄い」

「持ち帰る?」

 セシルが聞く。

「僕が回収する」

 ルシアンが専用の封印布を取り出した。

 羽を直接触れずに包み込む。

 その瞬間。

 リリアの耳元で。

 声がした。

『――見つけた』

「……!」

 振り返る。

「リリア?」

 セシルが立ち上がった。

「今、誰か喋った?」

「誰も」

 ノアの声。

「何て聞こえた?」

「見つけたって」

 空気が変わる。

「誰の声だ」

 カイルが尋ねた。

「分からない。男……かな」

「どこから?」

「近かった」

 リリアは自分の耳に触れる。

「すぐここで言われたみたいだった」

 アレンが周囲を見る。

 レオンハルトも魔力探知を広げる。

「人の気配はない」

「魔法通信の痕跡もないね」

 ルシアンが答える。

「じゃあ何?」

「今は分からない」

 いつもの言葉。

 けれど、今度のルシアンは誤魔化しているようには見えなかった。

「……戻ろう」

 セシルが言った。

「今日はここにいない方がいい」

 リリアは少し迷ってから頷いた。

「うん」

 歩き出す。

 その途中で、ノアが自然にリリアの隣へ並んだ。

「怖かった?」

「ちょっとだけ」

「珍しい」

「私も怖いものくらいある」

「そっか」

「ノアは?」

「怖いよ」

「何が?」

 ノアは前を向いたまま答えた。

「君が聞いた声」

「同じの聞こえた?」

「聞こえてない」

「じゃあなんで?」

「聞こえなかったから」

 意味が分からず、リリアはノアを見る。

 彼は笑っていた。

 いつものように。

 けれど、その手は強く握られていた。
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