魔法より、君に恋をする。
 温室を出る頃には、合同訓練の時間が近づいていた。

「急ぐ?」

「まだ間に合う」

「走る?」

「お前は走るな」

「なんで?」

「転ぶ」

「転ばない」

「昨日も階段で躓いていただろ」

「見てたの?」

「あれだけ大きな音を立てれば見る」

「転んでない」

「壁にぶつかった」

「止まれた」

「それを転びかけたと言う」

 リリアは不満そうに歩く。

「クロフォード先輩」

「何だ」

「手」

「……何だ」

「繋いだら転ばない」

 カイルが足を止めた。

「嫌?」

「……お前は」

「最近よく言われる」

「何をだ」

「危機感持てって」

「持て」

「クロフォード先輩にも?」

「特に男にはな」

「アレン先輩も同じこと言ってた」

 カイルの眉が動く。

「ヴァーミリオンが?」

「うん」

「何をした」

「手繋いだ」

「……」

「昨日」

「……そうか」

「なんで怖い顔するの?」

「してない」

「してる」

「してない」

「じゃあ手」

 リリアはもう一度差し出した。

 カイルはその手を見る。

 長い沈黙。

「訓練に遅れる」

「あと十五分ある」

「……」

「嫌ならいいよ」

 手を下ろそうとした瞬間。

 掴まれた。

「え」

「転ぶんだろ」

「たぶん転ばない」

「なら離す」

「嘘。転ぶかも」

「……」

「何?」

「いや」

 カイルは前を向いた。

 手は離さない。

 リリアも、そのまま歩く。

「クロフォード先輩」

「何だ」

「手、大きい」

「そうか」

「温かい」

「そうか」

「緊張してる?」

「してない」

「手ちょっと硬い」

「黙れ」

「やっぱりしてる?」

「リリア」

「はい」

「少し黙れ」

「照れてる?」

「離すぞ」

「黙ります」

 十秒。

「……」

「……」

「クロフォード先輩」

「十秒しか経ってない」

「長い」

「知ってる」

 リリアが笑った。

 カイルは前を向いたまま。

 それでも。

 繋いだ手だけは、最後まで離さなかった。
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