魔法より、君に恋をする。
 笑いが落ち着いた頃。

 リリアは改めてアレンを見る。

「でも、本当に教えてくれないんですね」

「何を」

「私のこと」

 アレンの表情が変わった。

「前から何度も言ってますよね。『遅い』とか、『変わらない』とか」

「……」

「私の好きなものも知ってる。昼が少ないと後で甘いもの食べることも知ってた。今日も苺が好きだって知ってた」

「偶然だ」

「そんなに偶然重ならないです」

「……」

「私たち、会ったことあります?」

「ない」

「嘘」

「ない」

「じゃあ、なんでそんな顔するの?」

「どんな顔だよ」

「苦しそう」

 アレンが黙る。

「クロフォード先輩も時々そういう顔します」

「……あいつも?」

「ルシアン先輩は隠すの上手いけど、たまにします」

「……」

「ノアも、少しだけ」

 アレンの目が細くなる。

「ノアも?」

「うん」

「レオンは?」

「本人が分かってない」

「……そうかよ」

 アレンは俯いた。

 夕方の風が赤い髪を揺らす。

「今は言えねえ」

 しばらくして、低い声がした。

「またそれ?」

「悪い」

「理由は?」

「言ったら、リリアがもっと首突っ込むから」

「多分突っ込みます」

「だろうな」

「じゃあ言っても同じでは?」

「違う」

 即答だった。

「知らねえから、まだ止まれることもある」

「私は止まらないと思う」

「知ってるよ」

 その声が妙に静かだった。

「だから困ってんだ」

 いつものアレンなら、もっと怒る。

 雑に誤魔化す。

 けれど今は、ただ疲れているように見えた。

 ずっと何かを抱えてきた人の顔だった。

「じゃあ、一つだけ」

「何だよ」

「いつか話してくれます?」

 アレンがこちらを見る。

「全部」

「……」

「私が知らない、アレン先輩が知ってること」

 長い沈黙のあと、彼は息を吐いた。

「約束は嫌いだ」

「なんで?」

「守れなかった時、残るから」

「何が?」

「……忘れろ」

「嫌です」

「だろうな」

 苦笑する。

「じゃあ約束じゃなくていいです」

「は?」

「話したくなったら話して」

「それじゃリリアが待つことになるだろ」

「待ちますよ」

 その瞬間。

 アレンの顔色が変わった。

「言うな」

「え?」

「簡単に待つとか言うな」

 怒鳴ってはいない。

 それなのに、今まで聞いた中で一番強い拒絶だった。

 リリアは黙る。

 アレン自身も、自分の声に驚いたようだった。

「……悪い」

「待つの嫌い?」

「嫌いだ」

「待たせるのも?」

「もっと嫌いだ」

「どうして?」

 アレンは答えなかった。

 ただ、握った拳に力が入る。

「でも、今は待つしかないです」

「……」

「アレン先輩が言いたくないなら、無理やり聞けないから」

「怒らねえの?」

「ちょっとは怒ってます」

「怒ってんのかよ」

「でも、話せない理由があるのも分かるので」

「物分かりいいな」

「成長しました」

「どこが」

 少しだけ、いつもの調子が戻る。

 リリアは安心した。

「その代わり」

「まだあんのか」

「勝手にいなくならないでください」

 アレンが止まった。

「……何?」

「話す前に卒業していなくなるとか、急に学院辞めるとか。そういうのはなし」

「なんでそんな話になるんだよ」

「待つなら、待った先にいてもらわないと困るから」

 赤い瞳が大きく見開かれた。

「アレン先輩?」

「……逆だろ」

「何が?」

「それ、俺の台詞だ」

 掠れた声だった。

「?」

「何でもねえ」

「禁止」

「今日だけ許せ」

「さっきも言ってた」

「頼むから」

 珍しく、本当に困った顔をしている。

「……分かりました」

「ありがと」

 小さな声だった。
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