私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 雅芳は、分かっていたのだ。先ほどがキスの絶好のタイミングだったことも、佳穂が期待していたことも。
 そうと理解した佳穂は決然と顔を上げた。

「あの……!」

 思い切って口を開いたものの、あとが続かない。
 こんなことを自分からせがんでいいのだろうか。はしたなくはないだろうか。
 そんな気持ちがせめぎ合って唇が震えてしまうのだ。
 それでも求める心は抑えきれなくて、佳穂はか細く揺れる声をきれぎれに吐き出した。

「キスして、くれませんか……」

 言い切ると同時に、二人の間にひゅうと風が吹く。
 少し肌寒い。それでも互いに微動だにせず見つめ合う。
 数秒の間を置いて、雅芳の手がゆるゆると上がり、おもむろに眼鏡を押し上げる。
 それから、ぐっと腕を引かれて、佳穂は彼の胸の中に飛び込む形となった。

「……いいのか?」

 掠れた声は細心の注意を払って恋人を気遣おうとしている。
 佳穂ははっきりと首を動かして頷いた。
 雅芳の手が流れるように動き、佳穂のおとがいを持ち上げる。

 ――あ……

 視線が絡んだ、と思う間もなく、迫ってきた彼の顔に急いで目をつぶる。
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