私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 星と街明かりと水面の光がきらきらと視界を彩り、静かな水の音が満ちている。

 このうえなくロマンチックなワンシーン。

 佳穂は内心身構えた。今夜こそキスをしてくれるかもしれない。そう思ったから。

 ゆっくりと雅芳の手が上がる。それは佳穂の頬にかかっていた髪を優しくすくい、耳にかけた。その瞬間、かすかにこすれた指の感触に佳穂はぴくりと震える。
 は、と雅芳が息を吐き出したのが聞こえた。内側になにかをこらえるような、熱を感じさせる吐息だった。
 いよいよだ、と佳穂は目蓋を下ろそうとする。けれど――

「――風が冷たくなってきたな。そろそろ戻ろうか」

 雅芳の手はそれ以上恋人の肌に触れることなく、あっさりと下ろされ、彼は身体の向きを変えてしまう。
 肩透かしを食らった形の佳穂はしばらくその場から動けなかった。
 だって、今のは絶対そういう空気だった。

 ――私の勘違いだった?

 佳穂が煩悶している間に数歩進んだ彼が、こちらを振り返る。二人の手は依然としてつながれたままだ。

「……佳穂」

 その声音に、どこかきまり悪そうな色が滲んでいることに佳穂は気がついた。
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