私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 それからどんなやりとりをして帰宅したのか、よく覚えていない。
 ぼんやり記憶にあるのは、良くも悪くもない雰囲気の中で、作り笑いを顔に貼り付け、とりとめのない会話に無難な相槌を打っていたことだけだ。
 そしていつもどおりに送り届けてもらった。

 おそらく雅芳は特に不審に思ってはいないだろう。聡い彼には絶対に気づかれないようにという一心で、溢れ出る感情を必死に押し殺していたから。
 けれど、自宅に帰れば、もう誰の目もない一人の空間だ。
 佳穂はラグの上に崩れ落ちるように座り込んだ。

「キスして、なんて、お願いしなきゃよかった……」

 雅芳の、あの冷めた瞳が忘れられない。
 二度目のキスで分かったのは、互いの間にある決定的な温度差だった。
 佳穂は願い続けた口づけをようやくもらえて、舞い上がるような気持ちだったのに。

 ――課長にとっては、求められたから応えただけの、義務的なキスだった?

 そう直感してしまうくらい、熱のない瞳だった。
 そんなはずはない。雅芳も佳穂を少なからず想ってくれているはず。
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