私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 全ては雅芳との交際を円満に続けていくため。
 佳穂の率直な返事を受けて、彼がわずかに目を丸くする。そして眼鏡を押し上げた。

「そう、か……」

 薄い唇から漏れ聞こえたのは、ほんの少し照れのようなものがにじんだ声だ。
 恋人の前向きな発言を耳にして思わず内心の喜びが漏れ出た。そんなふうに受け取れなくもない。けれど、佳穂はそれを気づかなかったことにした。
 相手の反応にいちいち心を揺らせば、あとで苦しくなる。そう学んでいたからだ。
 軽く咳払いをした雅芳が上司の顔に戻って言う。

「意気込むのはいいが、あまり自分を追い込みすぎないようにな」

 佳穂はそれに微笑んで頷いた。
 けれど、その二週間後、佳穂は雅芳の忠告をもっと真面目に聞いておくべきだったと後悔することになる。



「柏木は? もう帰ったのか?」

 その日、オフィスにそんな低い声が響いたのは、定時を一時間ほど過ぎた頃だった。
 積み上がった仕事を一心不乱に進めていた佳穂がふと視線を上げると、取引先から帰社したばかりの雅芳が柏木の席を確認している。

「帰宅したようですよ。なにか用事でもありましたか」
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