私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 そんな先輩に仕事を教えてもらえるなんていいね、といろんな人に言われたし、佳穂自身も、彼の的確な指導を通してそれを実感していた。

 佳穂が取引先に間違った資料を提出したときも、雅芳は顔色一つ変えなかった。

『先方への説明は僕がする。君は修正版を作って』

 彼はたったそれだけを指示すると、先方には佳穂の名前を出さず、自分の確認不足だったとして頭を下げた。
 佳穂は自分のせいで雅芳の評判に傷をつけてしまい、申しわけなさでいっぱいだったが、彼は会社に戻るといつもどおりの口調で指導した。

『ここ。数字を転記したあと、元データとの照合をしていないね』
『……はい』
『次からは必ず確認すること。――君なら同じ失敗はしないと思ってる』

 その言葉に佳穂はハッと顔を上げた。
 眼鏡の向こうの瞳は、冷たいとすら感じられるほど静かに凪いでいる。それでも視線を逸らすことなく、真っ直ぐに佳穂を見ていた。
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