私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 オフィスの入り口は佳穂の背中側にある。だから、逃げようと思えば容易に逃げられた。なのに、佳穂の足は床に張り付いたかのように動かない。
 雅芳の秀麗な顔がすぐそこにまで迫って佳穂は俯こうとする。しかし、素早く伸びてきた彼の手が頬を捉えて、優しく上向けられる。互いの視線が絡む。
 常に理性的で、感情の揺らぎなど一切見せない彼の瞳。その奥に、どこか甘い熱を見つけたような気がして、佳穂はまるで蜜の香りに誘われる蝶にでもなった心持ちになる。

『僕の、恋人になる?』
『………………はい』

 気づけばそんなふうに答えを返していた。



 八代雅芳との交際開始は観月佳穂にとってまさに青天の霹靂だった。
 彼は佳穂が新卒で入社した会社で新人教育を担当してくれた先輩であり、今では直属の上司でもある。

 彼のトレーニーとしてさまざまなことを学んでいた頃、同期からはよく羨みの言葉を言われた。
 なんせ雅芳は入社四年目の当時すでに頭角を現し、ずばぬけた優秀さで若手一番の出世頭と目されていたから。
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