私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】
 彼の耳元に、涙声の恨み言をこれでもかとぶつけてやる。
 その苦しみは雅芳にも伝わったのだろう、歯噛みするように彼の喉が動き、極限まで低い声で「ごめん」とひり出すのが聞こえた。身体に巻き付いた腕が強くなる。

「何度でも言う。僕は君が好きだ。捨てるなんてありえない。君は――君だけが、僕をこれほど惹きつける。こんな気持ちになったのは初めてだ」
「課長……」
「名前を呼んで、佳穂」
「……雅芳、さん」
「ああ……」

 感じ入るように呻いた雅芳は、余裕のない仕草で周囲を窺うと、眼鏡を外し、そっと佳穂に顔を近づけた。
 彼がなにを求めているかを察して、佳穂は瞳を大きくする。

「嫌ならやめる」

 ひそめるように囁かれた声音にじんと耳が熱くなる。佳穂はわずかに逡巡し、ふるふると首を横に振った。そうして、恥ずかしさをこらえながらおずおずと瞼を下ろす。
 そして――二人は互いの唇をゆっくりと重ね合わせた。



 やっと互いの思いを通わせた二人の夜がそれで終わるはずもなく、その日、雅芳は初めて佳穂の自宅に足を踏み入れた。

 玄関に入るなり、唇を塞がれて、その性急さに佳穂は喜びを覚えた。
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