花詠み ―雪中花―
第十話
ひとりで食べる夕食。
見たかった映画を視聴して気付けば、時計はもう20時を表示していた。
真夏だというのに、今夜は肌寒い。
そういえば窓を少し開けていたと思い、香苗はカーテンを開いた。
庭の水仙はまだ咲いていた。数がまた増えている。
しかも花は一斉に香苗の方を向いていた。
香苗は軽い悲鳴をあげ、急いで窓とカーテンを閉めた。
居間の電話機が不意に鳴りだし、香苗は背中を震わせた。
――拓真?
そう思って、急いで香苗は受話器に手を伸ばした。
「香苗かい?」
それは母の声だった。
視界が涙で滲む。
「引っ越ししてから何の連絡もよこさんと……」
「そんなことないよ、何度も電話したよ?」
「おかしいね、香苗から電話は来てないよ」
そういえばかかってくる電話は受け取れた。
でもかけた電話は繋がらなかった。
この家はやっぱり呪われている、そうしか思えなかった。
そうして香苗が風呂から上がった22時22分。
髪を乾かしていると、また電話がかかってきた。
香苗が受話器を取ると、拓真の声が、駅の雑踏の中に混じって聞こえた。
「香苗! ……大丈夫か?」
「うん」
駅のアナウンスの声が聞こえた。
これから帰ってくるのだと分かると、香苗はほっと安堵した。
「急いで帰るよ。独りにして、ごめんな」
「ううん、仕方ないよ」
拓真の気遣う様子に、心が少しだけ落ち着く。
ほうっとため息をつきながら受話器を置いた。
ひたすら気のせいだと思い続けるのも、香苗にはもう無理だった。
この恐怖も不安も、誰に打ち明ければいいのだろう。
拓真でさえ分かってくれないかもしれない。
「なんか肌寒いわね。窓……開けていたからかな?」
たぶんそのせいで風邪を引いたんだ。
それは違うと訴えてくる意識を、香苗は無理やり抑え込む。
風邪薬を2錠口に入れて水で流す。
水が喉を通る音がやけにはっきり聞こえた。
電気を消し、香苗は布団に入る。
するとまた水仙の花の香りが微かに鼻をくすぐった。
消したはずの照明が点滅し、薄暗い中でじわじわと布団が湿り始めた。
しかし布団に入った途端、深い眠りについた香苗はまだ気が付かなかった。
見たかった映画を視聴して気付けば、時計はもう20時を表示していた。
真夏だというのに、今夜は肌寒い。
そういえば窓を少し開けていたと思い、香苗はカーテンを開いた。
庭の水仙はまだ咲いていた。数がまた増えている。
しかも花は一斉に香苗の方を向いていた。
香苗は軽い悲鳴をあげ、急いで窓とカーテンを閉めた。
居間の電話機が不意に鳴りだし、香苗は背中を震わせた。
――拓真?
そう思って、急いで香苗は受話器に手を伸ばした。
「香苗かい?」
それは母の声だった。
視界が涙で滲む。
「引っ越ししてから何の連絡もよこさんと……」
「そんなことないよ、何度も電話したよ?」
「おかしいね、香苗から電話は来てないよ」
そういえばかかってくる電話は受け取れた。
でもかけた電話は繋がらなかった。
この家はやっぱり呪われている、そうしか思えなかった。
そうして香苗が風呂から上がった22時22分。
髪を乾かしていると、また電話がかかってきた。
香苗が受話器を取ると、拓真の声が、駅の雑踏の中に混じって聞こえた。
「香苗! ……大丈夫か?」
「うん」
駅のアナウンスの声が聞こえた。
これから帰ってくるのだと分かると、香苗はほっと安堵した。
「急いで帰るよ。独りにして、ごめんな」
「ううん、仕方ないよ」
拓真の気遣う様子に、心が少しだけ落ち着く。
ほうっとため息をつきながら受話器を置いた。
ひたすら気のせいだと思い続けるのも、香苗にはもう無理だった。
この恐怖も不安も、誰に打ち明ければいいのだろう。
拓真でさえ分かってくれないかもしれない。
「なんか肌寒いわね。窓……開けていたからかな?」
たぶんそのせいで風邪を引いたんだ。
それは違うと訴えてくる意識を、香苗は無理やり抑え込む。
風邪薬を2錠口に入れて水で流す。
水が喉を通る音がやけにはっきり聞こえた。
電気を消し、香苗は布団に入る。
するとまた水仙の花の香りが微かに鼻をくすぐった。
消したはずの照明が点滅し、薄暗い中でじわじわと布団が湿り始めた。
しかし布団に入った途端、深い眠りについた香苗はまだ気が付かなかった。