冴えない社長は恋知らず
第一章:社長の知らない採用

有能さと扱いづらさと。

「ここ……どうしようかな」

 小さく呟き、立華志月(たちばなしづき)はノートパソコンの画面を睨んだ。
 映し出されているのは、新商品のプロモーション映像。

 何度見返したかわからない。
 修正しては確認し、また気になる箇所を見つけて手を入れる。それをもう1週間近く繰り返している。

 もちろんこれだけに時間を費やしていた訳ではなく、企画書の確認に取引先との打ち合わせ。新商品の開発も進めながら、山のように届くメールにも目を通す。
 他の仕事はいつも通り片づけているのに、なぜかこれだけが終わらない。

「なんか違うんだよなぁ……」

 再生を止め、志月はメガネを外して眉間に皺を寄せた。

 悪くはないし、なんなら形にはなっている。
 なのに納得できない。

(何かが足りない気がする)

 その“何か”がわからないまま、もう何日も同じところを行ったり来たり。

「立華社長、すみません」

 不意に声をかけられ、志月は画面から顔を上げた。

「こちらを明日までに確認していただきたいんですが」
「あー……うん。そこに置いておいて。今日中に見るから」
「ありがとうございます」

 差し出された資料を受け取ったのとほぼ同時に

「社長、これもなんですが───」

 と、今度は別の社員がやってくる。

 志月は手元に増えた資料へ視線を落とし、それから再び、停止したままの映像へ目を戻した。
 デスクの上には、いつの間にか資料やファイルが所狭しと積み重なっている。

「……はぁ」

 思わず溜め息が溢れ、志月は椅子の背もたれに身体を預けた。

 “株式会社 月華(つきはな)
 志月が立ち上げた、美容商品の企画・開発から販売までを手掛ける会社だ。

 始めた頃は、こんな光景になるとは思っていなかった。
 商品企画もパッケージも、それに広告も。必要なものには自分で目を通し、自分で決める。それで十分まわっていたし、自身のやりがいにもなっていた。
 しかし会社が大きくなるにつれて、そうもいかなくなる。

「はぁ……今日も徹夜か」
「まーた徹夜してようとしてるの?」

 独り言に答えるように、背後から声が飛んできた。
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