私の運命の人
これが恋なのか?
わからないまま、私は坂井くんとの交際を続けていた。
大学の入学式を迎え、新しい環境の中、周りは見知らぬ人ばかり。
そんな中で坂井くんに会うと、どこかホッとしていたのも事実だ。
「優里、大学はどう?」
「うん、授業の選択で悩んでるの。カリキュラムを上手く組むのが大変で」
「そっか。どんなの? 見せて」
待ち合わせた週末のカフェで、坂井くんは私のタブレットを覗き込む。
「へえ、面白そうな講義がたくさんあるな」
「そうなの。やっぱり高校までの授業とは違って、自分の興味があるものを選べるのはいいよね」
「コンピュータアーキテクチャ、データ構造とアルゴリズム、プログラム実習か。楽しそう」
坂井くんはメディアサイエンス学科のカリキュラムにじっと目を落としていた。
「優里はどんな科目を取るの?」
「私は英語学とか英語教育法、教育原理や教育社会学、心理学とかかな。四年生になると教育実習に行くよ」
「三年後か。俺、その時まで留年してようかな」
「こら、だめです!」
「ははっ、怖い先生だな」
そんなおしゃべりは楽しかった。
「生徒会の方はどう? 新入生、入ってくれた?」
「うん、なんとかね。でも今どきの子は世代が違うわ。入学式からバリバリの金髪で、ピアスじゃらじゃら」
「ええ!? そんな子がいるの?」
「いるいる。うちの学校、校則ないからさ。金髪の他に緑と青とピンクもいる。戦隊生徒会レンジャー! って感じ」
あはは!と私はお腹を抱えて笑う。
「三十木先生、困ってない?」
「いつもの通常運転。淡々と話すから、ますますカラフルな一年生がシュールに見えてくるよ。時空が歪んでる? みたいな」
「面白いね、見てみたい」
「いつでも見においでよ。あ、学園祭は絶対来てよ?」
「うん、わかった」
坂井くんは私に目を細めてから腕時計を確かめた。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
このあとは映画を観に行くことになっている。
私たちはカップを返却口に返してからカフェを出た。
「桜、すっかり終わっちゃったな。残念、優里と見たかったのに」
「ごめんね、埼玉でずっとバタバタしていて」
三月の半ばに、埼玉で一人暮らしを続けていた祖母が体調を崩して入院することになったのだ。
流行っていた胃腸炎をもらってしまったらしく、すぐに治ると思っていたら食べるのも飲むのもおっくうなくらい体力が落ち、一人で動けなくなって救急車を呼んだらしい。
病院から連絡が来て飛んで行ったが、点滴を受けて体調は回復し、念の為五日間入院してから帰宅した。
両親は共働きで、ちょうど私が春休みということもあり、そのまま祖母の家で一週間泊まり込んで世話をしているうちに、桜の見頃を終えてしまった。
「でも優里、写真撮ったんだろ?」
「あ、うん。卒業の記念にって」
「どれ? 見たい」
私はスマートフォンを操作して写真アプリを開き、坂井くんに差し出した。
「おお、きれいだな」
祖母が撮ってくれた写真は、満開の桜の木の下で微笑む高校の制服姿の私。
坂井くんは頬を緩めて写真に見入っている。
「もう一枚、こっちも見てみて」
「どれ?」
画面を操作して、私は別の写真を坂井くんに見せた。
「えっ、これ、優里?」
「そう。五歳の頃」
それは同じように桜の木の下で笑う五歳の私の写真。
祖母がアルバムに貼ってあったのを、私がスマートフォンで撮影したのだった。
「桜の木がそのままでしょう? すごいよね、何年も同じように咲き続けるって」
「それもそうだけど、小さい優里がかっわいいなあ。どんな子だったの? 五歳の優里って」
「五歳は……特別な年だったかな」
「ん? どういう意味?」
「私の人生の中で、五歳の私は特別で永遠なの。今もずっと変わらない、私のルーツみたいな時間だったから」
ふうん……と坂井くんはわかったようなわからないような返事をする。
「気にしないで。ほら、急ごう。映画始まっちゃうよ」
私はスマートフォンをバッグにしまってから笑いかけた。
わからないまま、私は坂井くんとの交際を続けていた。
大学の入学式を迎え、新しい環境の中、周りは見知らぬ人ばかり。
そんな中で坂井くんに会うと、どこかホッとしていたのも事実だ。
「優里、大学はどう?」
「うん、授業の選択で悩んでるの。カリキュラムを上手く組むのが大変で」
「そっか。どんなの? 見せて」
待ち合わせた週末のカフェで、坂井くんは私のタブレットを覗き込む。
「へえ、面白そうな講義がたくさんあるな」
「そうなの。やっぱり高校までの授業とは違って、自分の興味があるものを選べるのはいいよね」
「コンピュータアーキテクチャ、データ構造とアルゴリズム、プログラム実習か。楽しそう」
坂井くんはメディアサイエンス学科のカリキュラムにじっと目を落としていた。
「優里はどんな科目を取るの?」
「私は英語学とか英語教育法、教育原理や教育社会学、心理学とかかな。四年生になると教育実習に行くよ」
「三年後か。俺、その時まで留年してようかな」
「こら、だめです!」
「ははっ、怖い先生だな」
そんなおしゃべりは楽しかった。
「生徒会の方はどう? 新入生、入ってくれた?」
「うん、なんとかね。でも今どきの子は世代が違うわ。入学式からバリバリの金髪で、ピアスじゃらじゃら」
「ええ!? そんな子がいるの?」
「いるいる。うちの学校、校則ないからさ。金髪の他に緑と青とピンクもいる。戦隊生徒会レンジャー! って感じ」
あはは!と私はお腹を抱えて笑う。
「三十木先生、困ってない?」
「いつもの通常運転。淡々と話すから、ますますカラフルな一年生がシュールに見えてくるよ。時空が歪んでる? みたいな」
「面白いね、見てみたい」
「いつでも見においでよ。あ、学園祭は絶対来てよ?」
「うん、わかった」
坂井くんは私に目を細めてから腕時計を確かめた。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
このあとは映画を観に行くことになっている。
私たちはカップを返却口に返してからカフェを出た。
「桜、すっかり終わっちゃったな。残念、優里と見たかったのに」
「ごめんね、埼玉でずっとバタバタしていて」
三月の半ばに、埼玉で一人暮らしを続けていた祖母が体調を崩して入院することになったのだ。
流行っていた胃腸炎をもらってしまったらしく、すぐに治ると思っていたら食べるのも飲むのもおっくうなくらい体力が落ち、一人で動けなくなって救急車を呼んだらしい。
病院から連絡が来て飛んで行ったが、点滴を受けて体調は回復し、念の為五日間入院してから帰宅した。
両親は共働きで、ちょうど私が春休みということもあり、そのまま祖母の家で一週間泊まり込んで世話をしているうちに、桜の見頃を終えてしまった。
「でも優里、写真撮ったんだろ?」
「あ、うん。卒業の記念にって」
「どれ? 見たい」
私はスマートフォンを操作して写真アプリを開き、坂井くんに差し出した。
「おお、きれいだな」
祖母が撮ってくれた写真は、満開の桜の木の下で微笑む高校の制服姿の私。
坂井くんは頬を緩めて写真に見入っている。
「もう一枚、こっちも見てみて」
「どれ?」
画面を操作して、私は別の写真を坂井くんに見せた。
「えっ、これ、優里?」
「そう。五歳の頃」
それは同じように桜の木の下で笑う五歳の私の写真。
祖母がアルバムに貼ってあったのを、私がスマートフォンで撮影したのだった。
「桜の木がそのままでしょう? すごいよね、何年も同じように咲き続けるって」
「それもそうだけど、小さい優里がかっわいいなあ。どんな子だったの? 五歳の優里って」
「五歳は……特別な年だったかな」
「ん? どういう意味?」
「私の人生の中で、五歳の私は特別で永遠なの。今もずっと変わらない、私のルーツみたいな時間だったから」
ふうん……と坂井くんはわかったようなわからないような返事をする。
「気にしないで。ほら、急ごう。映画始まっちゃうよ」
私はスマートフォンをバッグにしまってから笑いかけた。