私の運命の人
「優里、こっちこっち!」

四月の末に、私は広香とランチを一緒に食べることになった。
オープンテラスのカフェで、髪をゆるく巻いた広香が手を挙げる。

「お待たせ、広香」
「ううん。久しぶりだね、元気だった?」
「元気だよ。広香はすっかり大人の雰囲気だね」

再会を喜んでから、二人で日替わりのランチプレートを楽しむ。
大学やサークルなど、新生活のことをひとしきりしゃべってから、広香が改めて口を開いた。

「ねえ、小耳に挟んだんだけどさ。優里、坂井くんとつき合ってるの?」

うっ、と言葉に詰まりつつ、私は頷く。

「そうなんだ! 本当だったなんて。私、橋口から聞いて、そんな訳ないよって言っちゃった」
「ごめんね、話してなくて」
「それはいいけど。なんでまた坂井くんと? 優里の運命の人だったってこと?」
「ううん、成り行きなの」

成り行き?と広香が眉をひそめた。

「そう。成り行きで私のバイト先に一緒に行って、成り行きで坂井くんもバイトすることになって、成り行きで休憩時間が同じになって。で、成り行きでつき合うことになったって感じ」
「何それ。どこに好きになる要素があったの?」
「それは、なかったかもしれない」
「じゃあ、坂井くんに好きって言われて取り敢えず押し切られたってこと?」
「そんな言い方はちょっと違うと思うけど」
「どうして? 結局はそういうことでしょ?」

なぜだか広香は不機嫌そうで、私もどう言えばいいのかわからない。
うつむいていると、広香が真剣に「優里」と顔を覗き込んできた。

「優里の心の中にずっと在り続ける想いが消えたのならいいと思う。だけどそうでないなら、いつか優里も坂井くんも傷つくんじゃないかな?」
「……どういう意味?」
「うーん、ごめん。無責任なこと言っちゃったね。ちょっと心配だったの。優里って本気で運命の人を探そうとしてるって思ってたから。坂井くんのことをそう思えるのならいいんだけど、優里、成り行きって言葉ばっかり使ったでしょ。それでちょっとね、違うんじゃない? って思っちゃった」

それを言われると弁明の余地はない。私自身もそれは痛いほどわかっていた。

「広香、私、このままいつか坂井くんのことを好きになれたらいいなって思ってるの。だけどそれってやっぱり、失礼だよね」
「私の口からは何とも。けど、ちょっと思ったんだよね。坂井くん、本当は優里が自分を好きでつき合うことになったのではないって、気づいてると思う。優里、坂井くんに『好き』って言ったことある?」
「ううん、ない」
「それならやっぱり、わかってるんじゃないかな」
「そうだよね」

自分でもそう思っていたことを、改めて広香に言われて重みが増した。
私はきちんと坂井くんと話をしなければ。そう思った。
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