私の運命の人
そのあとは校舎を回ってお化け屋敷やメイド喫茶などを楽しみ、再び体育館に戻る。
次は生徒会の企画で「格付け大会」が予定されていた。

「どんなのだろうね?」

そう言いながら広香や橋口くんと待っていると、坂井くんがマイクを握ってステージに現れた。

「皆さま、お待たせいたしました。これより『格付け大会』を始めます。上流階級の人は教えられずとも己の五感でそれを見極められるはず。さてさて、誰が真の一流なのでしょう。我こそはと思う方、どうぞご参加ください」

えー?と客席がざわめく。
広香が有無を言わさず橋口くんの背中を押した。

「橋口、行ってこーい!」
「俺がセレブだってことがバレちゃうじゃないか。仕方ねえな」

まんざらでもなさそうに橋口くんはステージに上がった。
数人の生徒と来場者、そしてなんと、三十木先生までいた。

「え? しれっと三十路がいる!」
「ほんとだ。面白れえ」

生徒たちが身を乗り出して注目する中、三十木先生は坂井くんに促されるまま横一列に並べられた机の端の席に座った。

「さあ、自称一流の方々が八人勢揃いしました。早速始めようではありませんか。まず最初は、ステーキ対決! 最高級松坂牛を奮発して買ってまいりました。もう一つはスーパーで値引きされた輸入の切り落とし、しかも豚肉です」

「えー?」「あはは!」と歓声が上がる。

「この二種類のお肉を、調理部の皆さんが美味しく焼いてくれました。では挑戦者の皆さまは机の上にあるアイマスクを着けてください」

橋口くんや三十木先生たちが、コミカルな表情のアイマスクを着け、それだけでまた笑いが起きる。

「準備いいですか? 何も見えませんね? それでは会場の皆さまに特別に正解をお伝えします。いいですか? 声に出さないでくださいね?」

会場が静まり返ると、エプロンと三角巾を着けた調理部の女の子がステージに上がり、大きくAと書かれたボードを頭上に掲げた。
客席の皆は黙ったまま、うんうんと頷く。

「はい、皆さまは正解がわかったところで、挑戦者の方々に当てていただきましょう。ではまずAのお肉から。調理部のカワイ子ちゃんが食べさせてくれますので、お口を開けてください。はい、アーン」

客席からも「アーン」という声が上がる中、調理部の女の子たちがアイマスクを着けた橋口くんたちの口にお肉を運ぶ。

「どうでしょう、じっくり味わってくださいね。では続いてBのお肉です。はい、アーン」

またしても「アーン」と観客が見守り、八人の挑戦者たちはもぐもぐと口を動かしてから一斉に首をひねった。

「おや? もしかしてわからないんですか? 一流ともあろうお方が、まさか最高級松坂牛とお値引輸入のしかも豚肉の違いがわからないなんて、そんなことあるわけないですよねー?」

坂井くんがこれでもかと煽り、橋口くんたちは一層頭を抱えた。

「ではアイマスクを外してください。机の上にAとBの札がありますので、松坂牛だと思った方の札を上げてくださいね。それでは一斉にまいりましょう。せーの、どうぞ!」

パッと掲げられた札は、AとBが半分ずつ。
橋口くんはBだった。

「あいつー!」

広香がジロリと睨むと、ステージの上の橋口くんがヒッと首をすくめる。

「では正解は観客の皆さまに教えてもらいましょう。皆さま、この一流の方々に教えてあげてください。どちらが正解でしょうか、せーの!」
「A!」

その瞬間、がっくりと肩を落とすBの札の人と、「やったー!」とAの札を掲げる人とで明暗が分かれた。
橋口くんはもちろんがっくりだ。

「あれ? 三十路先生が正解してる」

澄ました顔でノーリアクションの三十木先生は、手にAの札を持っていた。

「全然嬉しそうじゃないね」
「正解したってわかってないのかな?」
「あはは! それはないでしょう」

私の言葉に広香が笑っていると、不正解だった橋口くんたちが客席に戻って来た。

「お疲れ、三流橋口」
「いや、違うんだよ。あれはな、調理部の味付けがすごくてさ。どっちもうまいんだよ」
「はいはい、言い訳だけは一流ね」

二人の会話に苦笑いしつつ、私は再びステージに注目する。
第二問は書道対決だった。

「我が校が誇る書道の高畠先生は、なんと師範であらせられます。一方は書道部の部長、コンクールの入賞歴があります。さて、どちらが先生の作品でしょうか。これは観客の皆さまもご一緒にお考えください」

そしてスクリーンに二つの作品が映し出された。

「ええー!? わかんない」
「どっちもすごくない?」

客席もそんな声でどよめいた。

「さあ、皆さまお心は決まりましたか? どちらも崩した字体ですが、高畠先生がおっしゃるには、筆の力強さと独特のかすれにご注目いただきたいとのことでした。ちなみに何と書いてあるかと申しますと……『留年回避』です」

あはは!と笑い声が上がる。

「では挑戦者の方々、札を上げてください!」

今回もちょうど半分、二対二に別れた。

「いい感じですねー、まさにこちらの狙い通りです。それでは正解発表です。高畠先生の作品は……Aです!」
「ええー!?」
「皆さまの絶妙なダジャレもいただきました」

坂井くんの司会に笑いが絶えない。
そしてまたしても三十木先生が正解していた。

「おっと、そうすると残ったのはこのお二人。三十路……失礼しました。三十路を過ぎた三十木先生と、お局……失礼しました。ベテランの晶子先生の対決となりました」

わー!っと観客から拍手が起こり、五十代の国語科の晶子先生が両手を上げて声援に応える。
三十木先生は相変わらず静止画のようだ。

「さあ、いよいよ頂上決戦。ラストは、音楽問題です!」

おおーと観客がどよめく。

「どんな問題だろうね?」
「うん。どっちがモーツァルトでどっちがバッハの曲か、とかじゃない?」

広香とそんなことを話していると、ステージに白いパーテーションが置かれ、一人の男子生徒が現れた。

「ではご説明します。こちらにいる弦学部の部長に、今からパーテーションの向こうで二台のヴァイオリンを演奏していただきます。一台はレッスンを受けている先生からお借りした、なんと三百万円のもの。心配で先生がすぐ隣で見守っていらっしゃいます。もう一台は部室の片隅にあった古いヴァイオリン、お値段一万円とお買い得価格。さて、皆さまは聞き分けられますでしょうか?」

ひゃー、どうだろうね、と広香がわくわくした様子で橋口くんの肩を叩く。

「橋口が選ばなかった方が正解だよ」
「なんだよ、おい」

そうこうしているうちに、部長の男の子がパーテーションの向こうに移動する。

「準備が整ったようです。ではまず、Aのヴァイオリンからお願いします。皆さま、よーくお聴きください」

シンと静まり返った会場に、やがて優美な音色が響き始めた。

(あれ、この曲何だっけ?)

私はそちらに気を取られてしまう。

(知ってる曲なんだけどな。んー、あっ、高校の校歌だ!)

ピンと来たと同時に演奏は終了した。
ざわっと会場がざわめく。

「おや? 皆さま、もうお分かりでしょうか?」

わかんなーい!と誰かが声を上げた。

「そうでしょう、そうでしょうとも。では続いてもう一台のヴァイオリンでお聴きください」

再び聞こえてきた音色に、やっぱり校歌だと思いつつ、どちらが高級ヴァイオリンなのかは見当がつかなかった。

「はい、ありがとうございました。どうでしょう、違いがわかりましたか? 二回とも間違いなく部長が演奏いたしました。さあ、三十路先生とお局晶子先生の一騎打ち! それでは札を、どうぞ!」

皆が注目する中、上げられたのは三十木先生がA、晶子先生がBの札だった。
おおー!と一気にどよめきが広がる。
晶子先生自身も、三十木先生の札を覗き込んで「えー!?」と驚いていた。

「いいですねー、狙った通りの展開です。ちなみに晶子先生、どうしてBだと思いましたか?」
「だって、AAと続いたから、次はBかなって」
「おや、そういう回答の仕方をするんじゃないと、いつも口を酸っぱくしておっしゃってるじゃないですか」

あはは!と笑い声が上がり、私も思わず笑ってしまう。
晶子先生はテストを返す時にいつも「見た目で答えが波打ってないと不安になるからって、バランスで○をつけないの!」と言っていた。

「そんな中、強気のAAAと答えた三十路先生、理由は?」

マイクを向けられて三十木先生は、「Aが三百万のヴァイオリンだと思ったからです」と答える。

「さすがどんな時も通常運転。これでこそ三十路先生です。さあ、皆さん。答えが気になって仕方ないですね?」

先を促すように一斉に拍手が起こった。

「うーん、もったいぶりたいところですが、白黒はっきりつけましょう。正解は……」

ゴクリと喉を鳴らし、会場中が静まり返る。
晶子先生は目をつぶって祈るように両手を組んでいた。

「正解は……Aです!」

ギャー!と晶子先生が悲鳴を上げ、会場も大きなどよめきに包まれた。

「というわけで頂上決戦を制し、見事超一流の名をその手に入れたのは、三十路先生です!」

調理部の女の子たちが再びステージに上がり、先生の頭に花かんむりを載せる。

「記念写真撮りまーす。はい、チーズ!」

可愛いキメポーズの女の子たちの真ん中で、いつもの真顔の三十木先生。その頭には花かんむり。

「シュールな一枚が撮れたところで、格付け大会、盛況のうちにお別れです。皆さま、ありがとうございましたー!」

ワーッと大きな拍手の中、ゆっくり幕が下ろされた。
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