私の運命の人
タクシーから降りると、先生は再び私を抱き上げる。

「部屋は?」
「二〇二号室です」
「わかった」

エレベーターで二階に上がり、真ん中の部屋に行くと私はバッグからカギを出して玄関を開けた。

「お邪魔するよ」

先生は靴を脱ぐと、ワンルームの私の部屋に上がり、ベッドにそっと私を座らせた。

「湿布はある?」
「はい、クローゼットの中に……」

立ち上がろうとする私を手で制して、先生はクローゼット開ける。

「これかな?」
「はい、そうです」

棚の上段にある赤い十字架のマークの救急箱を手に戻って来ると、優しく私の右足に手を添えた。

「湿布を貼って安静にしてて。明日病院に行く?」
「でも明日は日曜ですし、一日ゆっくりしていれば治ると思います」
「そうだといいけど。とにかく湿布を貼ろう」

どうやらカップルにぶつかられた時なのだろう、右足のストッキングが破れて擦り傷から少し血も滲んでいた。
はさみでストッキングを切ると、先生は消毒液で傷を消毒して絆創膏を貼り、足首にも二枚湿布を貼る。
その上からくるくると包帯を巻き始めた。
真剣なその横顔を見ていた私は急に思い出す。

「先生!」
「ん? どうした」
「眼鏡は? なくても見えるんですか?」
「ああ、あれ伊達眼鏡だから度は入ってないよ」
「そうなんですか? じゃあオシャレの為に?」
「僕がオシャレに気を遣うタイプに見える?」
「見えません。あ、ごめんなさい」
「いいよ。はい、できた」

先生はひざまずいたまま私を見上げる。

「オシャレの為じゃなくて、自分の顔を見るのが好きじゃないからかけてるんだ」
「……どうして?」
「まあ、色々ね。それより今日はこのままじっとしてて。今何か食べるものを買って来る」
「いえ、もう大丈夫ですから」
「言っただろう? 安静にしないと明後日仕事に行けなくなるぞ?」
「……はい、わかりました」
「よろしい。じゃあ玄関のカギを借りるよ。何か食べたいものはある?」

私は近所のコンビニのお弁当を思い浮かべながら考えた。

「んーと、じゃあ親子丼をお願いします」
「わかった。すぐ戻る」

そう言って先生は玄関を出て行った。
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