私の運命の人
懐かしい記憶
三年生が卒業したあと、少し静かになった校舎で私たちは終業式を迎えた。
春休みに入ると、早くも生徒会で新入生の入学式の準備が始まる。
その合間を縫って、私は埼玉の祖母の家に遊びに行った。
「おばあちゃん、優里だよー」
祖母の家に着くと門を開け、庭の縁側に向かって声をかける。
案の定、祖母は和室の引き戸を開けて縁側に姿を現した。
「優里、おかえり」
祖父は私が生まれてすぐの頃に亡くなり、以降祖母はこの家で一人暮らしをしているけれど、まだ七十歳ということもあっていつ見ても元気そうだ。
とは言え、一人では話し相手もいなくて寂しいのだろう。私を見て嬉しそうに目を細めた。
「おばあちゃん、お昼まだでしょ? デパ地下で美味しそうなお弁当買ってきたんだ」
「あら、いいわね。じゃあお味噌汁作るわ」
二人で和室のちゃぶ台に向かい合い、美味しい食事を楽しむ。
半分開けた引き戸から少しひんやりとする春風が吹き込んできて、私は顔を上げた。
「桜、まだ少し残ってるね」
庭には祖父の自慢だったという大きな桜の木があり、満開は過ぎたけれど、枝に数輪可愛らしいピンクの花が咲いていた。
「一週間前だったかしら。満開でそれはそれはきれいだったのよ。優里にも見せたかったわ」
「そっか。生徒会の用事があったから来られなかったの、残念。来年は早めに来るね」
「来年の今頃は、優里はもう高校を卒業してるのね?」
「うん。卒業式は毎年三月の初めだから」
「それなら、制服と卒業証書持って来なさいな。桜の下で写真撮りましょう」
「いいね、そうする」
微笑み合ってから、私はふと庭の先の家に目を向けた。
この家の斜め向かいに、シックなブラウンのタイル貼りの家がある。
「なんだかまだ見慣れないな。私の記憶の中では、あそこにあったのはおとぎ話に出て来そうな洋風のお屋敷だったから」
そう言うと祖母も私の視線の先を見た。
「ああ、生田さんち? もう十年以上前のことじゃない」
「そうなんだけど……。子どもの頃の記憶って、なんだかこう、刷り込まれてるじゃない? だからいつまでも忘れられないの」
「そう。今頃どうしてるのかしらね、生田さんちの坊っちゃん」
私たちはタイル貼りの家を見ながら、しばし思い出にふけった。
春休みに入ると、早くも生徒会で新入生の入学式の準備が始まる。
その合間を縫って、私は埼玉の祖母の家に遊びに行った。
「おばあちゃん、優里だよー」
祖母の家に着くと門を開け、庭の縁側に向かって声をかける。
案の定、祖母は和室の引き戸を開けて縁側に姿を現した。
「優里、おかえり」
祖父は私が生まれてすぐの頃に亡くなり、以降祖母はこの家で一人暮らしをしているけれど、まだ七十歳ということもあっていつ見ても元気そうだ。
とは言え、一人では話し相手もいなくて寂しいのだろう。私を見て嬉しそうに目を細めた。
「おばあちゃん、お昼まだでしょ? デパ地下で美味しそうなお弁当買ってきたんだ」
「あら、いいわね。じゃあお味噌汁作るわ」
二人で和室のちゃぶ台に向かい合い、美味しい食事を楽しむ。
半分開けた引き戸から少しひんやりとする春風が吹き込んできて、私は顔を上げた。
「桜、まだ少し残ってるね」
庭には祖父の自慢だったという大きな桜の木があり、満開は過ぎたけれど、枝に数輪可愛らしいピンクの花が咲いていた。
「一週間前だったかしら。満開でそれはそれはきれいだったのよ。優里にも見せたかったわ」
「そっか。生徒会の用事があったから来られなかったの、残念。来年は早めに来るね」
「来年の今頃は、優里はもう高校を卒業してるのね?」
「うん。卒業式は毎年三月の初めだから」
「それなら、制服と卒業証書持って来なさいな。桜の下で写真撮りましょう」
「いいね、そうする」
微笑み合ってから、私はふと庭の先の家に目を向けた。
この家の斜め向かいに、シックなブラウンのタイル貼りの家がある。
「なんだかまだ見慣れないな。私の記憶の中では、あそこにあったのはおとぎ話に出て来そうな洋風のお屋敷だったから」
そう言うと祖母も私の視線の先を見た。
「ああ、生田さんち? もう十年以上前のことじゃない」
「そうなんだけど……。子どもの頃の記憶って、なんだかこう、刷り込まれてるじゃない? だからいつまでも忘れられないの」
「そう。今頃どうしてるのかしらね、生田さんちの坊っちゃん」
私たちはタイル貼りの家を見ながら、しばし思い出にふけった。