私の運命の人
家族への挨拶
年が明けると新年の挨拶に実家に帰り、私はいっくんとの婚約を報告する。
埼玉の祖母の家にも二人で訪れた。

「懐かしいな、あの頃のままだ」

いっくんは、祖母の家を見上げて目を細める。

「まあっ! 生田さんの坊ちゃん!」

いっくんの姿を見た祖母はそれはそれは驚いて、しばらく事態を呑み込めなかった。

「えっ? 優里と結婚? 生田さんの坊ちゃんと優里が?」

何度も念を押してからようやく笑顔をみせる。
かと思えば、ポロポロと涙を流し始めた。

「おばあちゃん? 大丈夫?」
「だってもう、胸がいっぱいで。小さかった優里と坊ちゃんの幸せそうな姿が目に焼きついてるの。会えなくなってわんわん泣いた優里の顔も。それが今、二人揃って『結婚する』って報告しに来てくれたなんて。ああ、もう私、天国に召されてるの?」
「何言ってるの、おばあちゃん。私たち、生身の人間よ?」
「本当に、あの坊ちゃんが?」

いっくんは神妙に畳に両手をついた。

「その節は大変お世話になったにもかかわらず、黙って姿を消し、申し訳ありませんでした。再び優里さんにめぐり会えたことに感謝し、もう二度と離れたりはしません。一生をかけて優里さんを幸せにいたします。どうぞ私を優里さんと結婚させていただきたく、お願い申し上げます」

ああ……と祖母は言葉にならず泣き崩れる。

「本当にこんなことが? 神様の思し召しなのね。あなたたちは何度でもめぐり会う運命だったのよ」
「おばあちゃん、私もそう思う。これからはいっくんとずっと一緒にいるね」
「ええ、そうね。離れていた分、これからは二人でたくさん幸せになるのよ?」
「ありがとう、おばあちゃん」
「あと、水槽は持って帰って。置き場所に困るから」

急に現実的なことを言われて、私たちはポカンとしながら顔を見合わせる。
そして同時に笑い出した。

「わかった、持って帰るね。二人でまた金魚を育てる」
「そうね。わっくんは十二年生きたから、さらにその上を目指してね。あと、あなたたちの赤ちゃんも早く見せてね」

感激の面持ちながら要所要所に現実的なことを挟む祖母に、私もいっくんも苦笑いを浮かべるしかなかった。

滋賀のいっくんのお母さんのところにも二人で挨拶に向かう。

「まあ、優里ちゃん? 大きくなって」

私を知っている口ぶりに驚いていると、いっくんによく似た優しい顔立ちのお母さんは「あ、ごめんなさい」と謝る。

「小松さんの家の庭先で、元気に駆け回る幼い頃のあなたをよく見かけたの。とても可愛らしくて、こちらまで笑顔にさせてくれて。小さなあなたが私の心を明るくしてくれていたの。だから勝手に親近感を持ってしまって……。ごめんなさいね」
「いいえ、とんでもない」

私が恐縮すると、お母さんはしみじみと話し出した。

「うちの息子と結婚してくださるなんて、とてもありがたく嬉しいお話です。息子は私のせいで自分の結婚は考えられなくなっていたから。けれど私は、生田とは離婚してもう縁を切ってしまったの。だから、その、息子が相続できるものは何もなくて……。本当にごめんなさい。こんなことなら離婚は踏みとどまっておけばよかった」

声を震わせるお母さんに、私は思わず身を乗り出す。

「いいえ、そんなことおっしゃらないでください。幸せになる道を選んで、今こうして穏やかに暮らしていらっしゃることが何よりです。私は何もいりません。ただ一緒にいたい、その気持ちだけです。どうか結婚をお許しいただけますよう、お願いいたします」
「まあ、優里ちゃん。ありがとう、本当にありがとうございます。私のせいで息子にも辛い人生を送らせてしまいました。これからはどうか幸せになってほしい。優里ちゃん、息子をよろしくお願いします」
「はい。必ず二人で幸せになります」

お母さんはただひたすら頷いて涙を流していた。
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