あの日の続き
第四話 言えないこと
新チームになって、二週間。
少しずつ練習の形が決まってきた。
一年生も、最初の頃より声が出るようになった。
二年生も、自分たちから動くことが増えた。
そして三年生の六人も、それぞれの役割が見え始めていた。
るいは全体を見る。
しょうぶは先頭に立つ。
りょうたは必要なときだけ口を出す。
ゆうとは声を出して空気を作る。
れいは守備でチームを支える。
たくやは、みんなを笑わせる。
一見すると、うまくいっている。
けれど――。
「たくや、今日シュート入ってなかったな」
練習後、ゆうとが笑いながら言った。
「いやー、今日はリングが俺を嫌ってた」
「リングのせいにすんなよ」
「明日は仲直りするから」
たくやは笑った。
「じゃあな」
「おう」
たくやはみんなと別れ、一人で体育館に戻った。
誰もいないと思った。
ボールを一つ持って、スリーポイントラインに立つ。
シュート。
外れる。
もう一度。
外れる。
「……くそ」
小さく呟いた。
また打つ。
今度は入った。
でも、たくやは喜ばない。
すぐに次のボールを拾う。
シュート。
外れる。
「……もう一本」
また打つ。
「たくや?」
突然、声がした。
たくやが振り返る。
体育館の入口に、りょうたが立っていた。
「……りょうた?」
「まだいたんだ」
「うん。ちょっとだけ」
たくやは笑った。
「自主練?」
「まあね」
りょうたは体育館に入ってくる。
「最近、毎日残ってるよね」
「そう?」
「うん」
「気のせいじゃない?」
「……そう」
りょうたはそれ以上言わなかった。
たくやはホッとしたように笑う。
「りょうたもやる?」
「俺はいい」
「じゃあ帰る?」
「たくやが終わるまでいる」
「え?」
「別に」
りょうたは壁際に座った。
たくやは困ったように笑った。
「なんで?」
「なんとなく」
「変なの」
そう言いながら、またシュートを打つ。
一本。
入る。
「ナイス」
りょうたが言う。
「ありがと」
もう一本。
入る。
「今のも」
「でしょ?」
たくやが笑う。
でも、その笑顔は少しだけ疲れていた。
その頃。
体育館の外では、ゆうととれいが歩いていた。
「たくや、まだ残ってる?」
ゆうとが聞く。
「うん」
れいが答える。
「そっか」
ゆうとは少しだけ立ち止まった。
「……最近、あいつ無理してない?」
「思う」
れいが答える。
「でも本人に聞いても、笑って誤魔化す」
「だよな」
ゆうとは苦笑した。
「たくやって、昔からそうだから」
「知ってる」
「怒られても笑うし」
「うん」
「失敗しても笑うし」
「うん」
「疲れてても笑う」
れいが黙った。
「……笑わないと、ダメだと思ってるのかな」
ゆうとが呟く。
れいは少し考えた。
「たぶん」
「……そっか」
ゆうとは体育館を見る。
「俺、あいつのことちゃんと見れてると思ってた」
「見てるよ」
「でも、見てるだけじゃダメなのかもな」
れいがゆうとを見る。
ゆうとは笑っていた。
いつもの笑顔。
でも、その目は笑っていなかった。
その翌日。
練習中。
「たくや!」
しょうぶが叫んだ。
「はい!」
「今のディフェンス!」
「ごめん!」
「昨日も同じこと言ったよな?」
「ごめんごめん!」
たくやは笑う。
「次気をつける!」
「笑ってる場合じゃないだろ」
しょうぶの声が少し強くなった。
体育館が静かになる。
たくやは一瞬だけ黙った。
「……うん」
それでも、すぐに笑った。
「次頑張る!」
しょうぶは何も言わなかった。
練習が再開する。
その様子を、ゆうとはじっと見ていた。
休憩。
たくやが水を飲んでいると、ゆうとが隣に座った。
「たくや」
「ん?」
「最近、ちゃんと寝てる?」
「寝てる寝てる」
「ほんと?」
「ほんとだって」
「自主練も?」
「まあ、ちょっとだけ」
「毎日?」
「……まあ」
ゆうとは黙る。
たくやが笑う。
「何? 心配してんの?」
「してる」
「大丈夫だよ」
「そっか」
「うん」
ゆうとはそれ以上聞かなかった。
ただ、
「無理なときは言えよ」
と言った。
たくやは笑った。
「大丈夫だって」
「……うん」
二人の間に、少しだけ沈黙が流れる。
そして、たくやが立ち上がった。
「行こうぜ」
「うん」
ゆうとも立ち上がる。
二人でコートへ戻る。
たくやは笑っていた。
ゆうとも笑っていた。
でも――。
二人とも、本当は分かっていた。
「大丈夫」という言葉だけでは、隠せないものがあることを。
少しずつ練習の形が決まってきた。
一年生も、最初の頃より声が出るようになった。
二年生も、自分たちから動くことが増えた。
そして三年生の六人も、それぞれの役割が見え始めていた。
るいは全体を見る。
しょうぶは先頭に立つ。
りょうたは必要なときだけ口を出す。
ゆうとは声を出して空気を作る。
れいは守備でチームを支える。
たくやは、みんなを笑わせる。
一見すると、うまくいっている。
けれど――。
「たくや、今日シュート入ってなかったな」
練習後、ゆうとが笑いながら言った。
「いやー、今日はリングが俺を嫌ってた」
「リングのせいにすんなよ」
「明日は仲直りするから」
たくやは笑った。
「じゃあな」
「おう」
たくやはみんなと別れ、一人で体育館に戻った。
誰もいないと思った。
ボールを一つ持って、スリーポイントラインに立つ。
シュート。
外れる。
もう一度。
外れる。
「……くそ」
小さく呟いた。
また打つ。
今度は入った。
でも、たくやは喜ばない。
すぐに次のボールを拾う。
シュート。
外れる。
「……もう一本」
また打つ。
「たくや?」
突然、声がした。
たくやが振り返る。
体育館の入口に、りょうたが立っていた。
「……りょうた?」
「まだいたんだ」
「うん。ちょっとだけ」
たくやは笑った。
「自主練?」
「まあね」
りょうたは体育館に入ってくる。
「最近、毎日残ってるよね」
「そう?」
「うん」
「気のせいじゃない?」
「……そう」
りょうたはそれ以上言わなかった。
たくやはホッとしたように笑う。
「りょうたもやる?」
「俺はいい」
「じゃあ帰る?」
「たくやが終わるまでいる」
「え?」
「別に」
りょうたは壁際に座った。
たくやは困ったように笑った。
「なんで?」
「なんとなく」
「変なの」
そう言いながら、またシュートを打つ。
一本。
入る。
「ナイス」
りょうたが言う。
「ありがと」
もう一本。
入る。
「今のも」
「でしょ?」
たくやが笑う。
でも、その笑顔は少しだけ疲れていた。
その頃。
体育館の外では、ゆうととれいが歩いていた。
「たくや、まだ残ってる?」
ゆうとが聞く。
「うん」
れいが答える。
「そっか」
ゆうとは少しだけ立ち止まった。
「……最近、あいつ無理してない?」
「思う」
れいが答える。
「でも本人に聞いても、笑って誤魔化す」
「だよな」
ゆうとは苦笑した。
「たくやって、昔からそうだから」
「知ってる」
「怒られても笑うし」
「うん」
「失敗しても笑うし」
「うん」
「疲れてても笑う」
れいが黙った。
「……笑わないと、ダメだと思ってるのかな」
ゆうとが呟く。
れいは少し考えた。
「たぶん」
「……そっか」
ゆうとは体育館を見る。
「俺、あいつのことちゃんと見れてると思ってた」
「見てるよ」
「でも、見てるだけじゃダメなのかもな」
れいがゆうとを見る。
ゆうとは笑っていた。
いつもの笑顔。
でも、その目は笑っていなかった。
その翌日。
練習中。
「たくや!」
しょうぶが叫んだ。
「はい!」
「今のディフェンス!」
「ごめん!」
「昨日も同じこと言ったよな?」
「ごめんごめん!」
たくやは笑う。
「次気をつける!」
「笑ってる場合じゃないだろ」
しょうぶの声が少し強くなった。
体育館が静かになる。
たくやは一瞬だけ黙った。
「……うん」
それでも、すぐに笑った。
「次頑張る!」
しょうぶは何も言わなかった。
練習が再開する。
その様子を、ゆうとはじっと見ていた。
休憩。
たくやが水を飲んでいると、ゆうとが隣に座った。
「たくや」
「ん?」
「最近、ちゃんと寝てる?」
「寝てる寝てる」
「ほんと?」
「ほんとだって」
「自主練も?」
「まあ、ちょっとだけ」
「毎日?」
「……まあ」
ゆうとは黙る。
たくやが笑う。
「何? 心配してんの?」
「してる」
「大丈夫だよ」
「そっか」
「うん」
ゆうとはそれ以上聞かなかった。
ただ、
「無理なときは言えよ」
と言った。
たくやは笑った。
「大丈夫だって」
「……うん」
二人の間に、少しだけ沈黙が流れる。
そして、たくやが立ち上がった。
「行こうぜ」
「うん」
ゆうとも立ち上がる。
二人でコートへ戻る。
たくやは笑っていた。
ゆうとも笑っていた。
でも――。
二人とも、本当は分かっていた。
「大丈夫」という言葉だけでは、隠せないものがあることを。