あの日の続き
第五話 言葉にしない優しさ
六月。
新チームになってから、二か月が経った。
体育館の暑さも、少しずつ増してきた。
「ラスト二本!」
しょうぶの声が響く。
「声出せー!」
ゆうとが続く。
「おうせい、右!」
れいの声。
「はい!」
一年生のおうせいが走る。
パスを受けたあつきがシュート。
外れる。
「リバウンド!」
たくやが叫ぶ。
ボールを拾ったみずきが、すぐに戻す。
「ナイス!」
ゆうとが笑う。
新しいチームは、少しずつ形になっていた。
最初の頃とは違う。
誰かがミスすれば、誰かが声をかける。
苦しくなれば、誰かが走る。
それが当たり前になりつつあった。
けれど――。
その日の練習試合。
相手は県内でも上位にいる高校だった。
開始早々、点差が開いた。
10点。
15点。
20点。
「まだいける!」
しょうぶが叫ぶ。
「一本ずつ!」
ゆうとも声を出す。
けれど、相手のプレッシャーは強かった。
パスが通らない。
シュートも落ちる。
ディフェンスも崩れる。
そして。
「タイムアウト!」
ベンチに戻る。
みんなが息を切らしていた。
しょうぶがホワイトボードを見る。
「……どうする?」
誰も答えない。
るいも考えている。
そのとき。
「一回、落ち着こう」
りょうたが言った。
全員が顔を上げる。
「焦ってる」
りょうたは続けた。
「相手が強いからって、早く返そうとしてる。それでミスが増えてる」
「……確かに」
るいが頷く。
りょうたが続ける。
「俺たち、別に今すぐ20点返さなくていい」
しょうぶを見る。
「まず一本」
「……うん」
「一本取ったら、また一本」
りょうたの声は静かだった。
でも、不思議と全員が落ち着いた。
後半。
少しずつ流れが変わった。
一本。
また一本。
点差が20点から15点に。
15点から11点に。
「いけるぞ!」
たくやが叫ぶ。
「まだある!」
ゆうとも叫ぶ。
れいが相手のボールを奪う。
「ナイス!」
おうせいが走る。
速攻。
シュート。
入る。
「よし!」
ベンチが沸く。
その瞬間。
たくやが誰よりも大きな声で叫んだ。
「まだいける!」
結局。
試合には負けた。
最終スコアは、78対69。
9点差。
試合終了のブザーが鳴る。
「ありがとうございました!」
両チームが礼をする。
戻ってきた選手たちに、先生が言った。
「負けたけど、後半は良かった」
しょうぶが頷く。
「はい」
るいも頷いた。
「前半、完全に俺たちが焦ってました」
りょうたが言う。
「でも後半は、ちゃんとバスケできてた」
「そうだな」
先生が言った。
「今日の試合、覚えておけ」
「はい」
片付け。
たくやがボールを拾っていた。
ゆうとが近づく。
「たくや」
「ん?」
「今日、よかったな」
「何が?」
「後半」
たくやは笑った。
「俺じゃなくて、みんなが良かったんだよ」
「そういうとこ」
「何?」
「すぐ自分のこと後回しにする」
たくやは少し黙った。
「……別に」
「俺、見てたから」
「何を?」
「最後までずっと声出してた」
たくやが笑う。
「声出すくらいしかできないから」
その言葉に、ゆうとの表情が変わった。
「……それ、本気で言ってる?」
「え?」
「たくやが、声出すくらいしかできないって」
「いや、だって」
「俺はそう思わないけど」
たくやは何も言わなかった。
ゆうとは続けた。
「お前、誰より練習してるじゃん」
「……」
「誰より走ってるし」
「……」
「なのに、いつも自分のこと大したことないみたいに言うじゃん」
たくやは俯いた。
「……だって」
「うん」
「頑張ってるって思われるの、なんか恥ずかしい」
ゆうとは少し笑った。
「変なの」
「うるさい」
「でも、たくやらしい」
「何それ」
二人で笑う。
そのとき。
「おーい!」
体育館の入口から、るいの声がした。
「帰るぞー!」
「今行く!」
たくやが返事をする。
そして、ゆうとの横を通り過ぎる。
「……ゆうと」
「ん?」
「ありがとな」
「何が?」
「……なんとなく」
ゆうとは笑った。
「うん」
帰り道。
六人で歩く。
しょうぶが今日の試合について話している。
「前半、俺もっと周り見ないとな」
「そうだな」
りょうたが答える。
「でも後半は良かった」
れいが言う。
「うん」
たくやも頷く。
「次は勝とうぜ」
ゆうとが言う。
るいがみんなを見る。
「うん」
そして、少しだけ笑った。
六月。
夏の大会まで、あと少し。
六人はまだ知らない。
この何気ない帰り道が、
あとになって、
「あの頃に戻りたい」と思うほど大切な時間になることを。
新チームになってから、二か月が経った。
体育館の暑さも、少しずつ増してきた。
「ラスト二本!」
しょうぶの声が響く。
「声出せー!」
ゆうとが続く。
「おうせい、右!」
れいの声。
「はい!」
一年生のおうせいが走る。
パスを受けたあつきがシュート。
外れる。
「リバウンド!」
たくやが叫ぶ。
ボールを拾ったみずきが、すぐに戻す。
「ナイス!」
ゆうとが笑う。
新しいチームは、少しずつ形になっていた。
最初の頃とは違う。
誰かがミスすれば、誰かが声をかける。
苦しくなれば、誰かが走る。
それが当たり前になりつつあった。
けれど――。
その日の練習試合。
相手は県内でも上位にいる高校だった。
開始早々、点差が開いた。
10点。
15点。
20点。
「まだいける!」
しょうぶが叫ぶ。
「一本ずつ!」
ゆうとも声を出す。
けれど、相手のプレッシャーは強かった。
パスが通らない。
シュートも落ちる。
ディフェンスも崩れる。
そして。
「タイムアウト!」
ベンチに戻る。
みんなが息を切らしていた。
しょうぶがホワイトボードを見る。
「……どうする?」
誰も答えない。
るいも考えている。
そのとき。
「一回、落ち着こう」
りょうたが言った。
全員が顔を上げる。
「焦ってる」
りょうたは続けた。
「相手が強いからって、早く返そうとしてる。それでミスが増えてる」
「……確かに」
るいが頷く。
りょうたが続ける。
「俺たち、別に今すぐ20点返さなくていい」
しょうぶを見る。
「まず一本」
「……うん」
「一本取ったら、また一本」
りょうたの声は静かだった。
でも、不思議と全員が落ち着いた。
後半。
少しずつ流れが変わった。
一本。
また一本。
点差が20点から15点に。
15点から11点に。
「いけるぞ!」
たくやが叫ぶ。
「まだある!」
ゆうとも叫ぶ。
れいが相手のボールを奪う。
「ナイス!」
おうせいが走る。
速攻。
シュート。
入る。
「よし!」
ベンチが沸く。
その瞬間。
たくやが誰よりも大きな声で叫んだ。
「まだいける!」
結局。
試合には負けた。
最終スコアは、78対69。
9点差。
試合終了のブザーが鳴る。
「ありがとうございました!」
両チームが礼をする。
戻ってきた選手たちに、先生が言った。
「負けたけど、後半は良かった」
しょうぶが頷く。
「はい」
るいも頷いた。
「前半、完全に俺たちが焦ってました」
りょうたが言う。
「でも後半は、ちゃんとバスケできてた」
「そうだな」
先生が言った。
「今日の試合、覚えておけ」
「はい」
片付け。
たくやがボールを拾っていた。
ゆうとが近づく。
「たくや」
「ん?」
「今日、よかったな」
「何が?」
「後半」
たくやは笑った。
「俺じゃなくて、みんなが良かったんだよ」
「そういうとこ」
「何?」
「すぐ自分のこと後回しにする」
たくやは少し黙った。
「……別に」
「俺、見てたから」
「何を?」
「最後までずっと声出してた」
たくやが笑う。
「声出すくらいしかできないから」
その言葉に、ゆうとの表情が変わった。
「……それ、本気で言ってる?」
「え?」
「たくやが、声出すくらいしかできないって」
「いや、だって」
「俺はそう思わないけど」
たくやは何も言わなかった。
ゆうとは続けた。
「お前、誰より練習してるじゃん」
「……」
「誰より走ってるし」
「……」
「なのに、いつも自分のこと大したことないみたいに言うじゃん」
たくやは俯いた。
「……だって」
「うん」
「頑張ってるって思われるの、なんか恥ずかしい」
ゆうとは少し笑った。
「変なの」
「うるさい」
「でも、たくやらしい」
「何それ」
二人で笑う。
そのとき。
「おーい!」
体育館の入口から、るいの声がした。
「帰るぞー!」
「今行く!」
たくやが返事をする。
そして、ゆうとの横を通り過ぎる。
「……ゆうと」
「ん?」
「ありがとな」
「何が?」
「……なんとなく」
ゆうとは笑った。
「うん」
帰り道。
六人で歩く。
しょうぶが今日の試合について話している。
「前半、俺もっと周り見ないとな」
「そうだな」
りょうたが答える。
「でも後半は良かった」
れいが言う。
「うん」
たくやも頷く。
「次は勝とうぜ」
ゆうとが言う。
るいがみんなを見る。
「うん」
そして、少しだけ笑った。
六月。
夏の大会まで、あと少し。
六人はまだ知らない。
この何気ない帰り道が、
あとになって、
「あの頃に戻りたい」と思うほど大切な時間になることを。