あの日の続き

最終章 夢の続き

成人式から、三年が経った。

高校を卒業してから、六年。

あの日、県大会ベスト8で終わった体育館から、それだけの時間が流れていた。

六人は、それぞれ違う場所で生きていた。

るいとりょうたは、同じ会社で働いている。

スポーツ用品を扱う会社。

高校時代からずっと身近にあった、バスケットボールやシューズ、ユニフォーム、ボール。

今では、それを「売る側」になっていた。

しょうぶは、大学でもバスケットボールを続けた。

そして今は、スポーツドリンクを扱う会社で働いている。

ゆうとは、大学を卒業して教員になった。

中学校の教師。

そして、男子バスケットボール部の顧問。

れいは、工学系の大学を卒業し、スポーツシューズの開発に関わる仕事をしている。

「守る」という言葉を、高校時代とは違う形で追い続けていた。

そして、たくやは大学で学んだことを生かして、整骨院で働いていた。

身体のケア。

怪我をしないための身体づくり。

選手がもう一度コートに立つためのサポート。

六人は、全員違う場所にいた。

けれど。

不思議なことに。

全員が、まだバスケットボールの近くにいた。

---

その日は、久しぶりに六人全員が集まる日だった。

駅前の小さな店。

仕事終わりの六人が、少しずつ集まってくる。

「おっせーよ、るい」

「いや、お前らが早すぎるんだろ」

「りょうたなんか一時間前からいるぞ」

「……暇だったから」

「絶対嘘だろ」

高校時代と変わらない。

くだらないことで笑う。

昔の話をする。

「そういえば、しょうぶ大学でもバスケやってたんだよな」

「やったよ」

「どれくらい続けた?」

「卒業まで」

「マジかよ」

「お前らがいないの、最初は結構きつかったけどな」

その言葉に、少しだけ空気が静かになった。

しょうぶは笑った。

「でも、大学で新しい仲間もできた。楽しかったよ」

「そっか」

るいが笑う。

「よかったな」

「……うん」

それだけだった。

けれど。

六人には、それで十分だった。

高校時代の六人は、もういない。

でも。

あの日々を知っている六人は、ここにいる。

---

食事を終えたころ。

るいが突然言った。

「……なあ」

「ん?」

「今日さ」

るいは少しだけ間を置いた。

「先生たちに会いに行かない?」

全員が顔を上げた。

「佐々木先生?」

「うん」

「相澤先生も?」

「もちろん」

少しの沈黙。

そして。

しょうぶが笑った。

「……行こうぜ」

「俺も行きたい」

ゆうとが続く。

「俺、先生たちに話したいことある」

「俺も」

れいも言った。

たくやが笑う。

「なんか緊張するな」

りょうたが小さく笑った。

「高校卒業して六年も経つのに?」

「いや、先生に会うときって、いつまで経っても緊張するだろ」

「……それは分かる」

六人は笑った。

そして。

高校時代、何度も通った場所へ向かった。

---

体育館の前に立った瞬間。

六人の足が止まった。

「……変わってないな」

るいが呟く。

扉。

廊下。

体育館の入り口。

あの頃と同じようで。

でも、自分たちだけが大きく変わった。

るいが扉を開けた。

体育館の中から、ボールの音が聞こえてくる。

ドン。

ドン。

ドン。

そして。

「……誰だ?」

聞き覚えのある声。

六人が一斉に振り向いた。

そこにいたのは。

佐々木先生だった。

少しだけ白髪が増えていた。

でも。

あの頃と同じ顔だった。

「……先生」

るいが笑った。

佐々木先生は一瞬、言葉を失った。

「……お前ら」

一人ずつ顔を見る。

るい。

しょうぶ。

りょうた。

ゆうと。

れい。

たくや。

「……お前らかよ」

その声が少し震えた。

「久しぶりだな」

「お久しぶりです」

六人が頭を下げる。

すると。

佐々木先生は笑った。

「……なんだよ」

「何がですか?」

「お前ら、全然変わってないじゃねえか」

「先生もですよ」

「俺は変わったよ」

「白髪増えました?」

たくやが言う。

「おい、たくや」

全員が笑った。

その笑い声に。

佐々木先生も笑った。

---

その後。

体育館の奥から、もう一人の先生が現れた。

「……あれ?」

相澤先生だった。

「お前ら……?」

「相澤先生!」

「久しぶりです!」

「お前ら、六人揃ってるのかよ」

相澤先生も驚いたように目を丸くした。

「成人式のとき以来か?」

「そうですね」

「大人になったなあ」

「先生もですよ」

「俺は昔から大人だ」

「いや、それは違う」

ゆうとが即答した。

「お前なあ!」

また笑い声が起きる。

六人と二人の先生。

久しぶりなのに。

不思議なくらい、昔のままだった。

---

しばらく話したあと。

るいが言った。

「先生」

「ん?」

「今日は、報告しに来たんです」

佐々木先生が首を傾げる。

「報告?」

「はい」

るいは少しだけ緊張したように息を吸った。

「俺、就職しました」

「知ってるぞ」

「……え?」

「会社から聞いた」

「なんでですか」

「お前が入った会社、うちの大会でも関わってるからな」

「そうなんだ……」

るいが笑う。

「今、スポーツ用品を扱う仕事をしています」

「うん」

「高校のときは、スポーツをする側だったけど」

一度、体育館を見る。

「今は、スポーツをする人を支える側になりました」

佐々木先生は何も言わなかった。

ただ、頷いた。

「……夢、叶えましたよ」

るいが言った。

その瞬間。

佐々木先生の目が少し赤くなった。

「……そうか」

短い言葉だった。

でも。

それだけで、十分だった。

---

「次、俺いい?」

りょうたが口を開いた。

「俺も、るいと同じ会社です」

「知ってる」

「高校のときは、るいと一緒にプレーしてましたけど」

少し笑って。

「今は、一緒にスポーツを支える仕事してます」

「……そうか」

「同じ会社に入ったのも、偶然じゃないと思ってます」

るいを見る。

「こいつと一緒に仕事するの、結構楽しいんで」

「お前、本人の前で言うなよ」

「なんで?」

「恥ずかしいだろ」

「高校のときから一緒だったじゃん」

「……まあな」

二人が笑う。

佐々木先生も笑った。

「お前ららしいよ」

そして。

「夢、叶えたんだな」

「はい」

二人が同時に答えた。

---

次に、しょうぶが前に出た。

「俺は……」

少しだけ黙る。

「大学でもバスケを続けました」

佐々木先生が頷く。

「最初は迷いました」

「うん」

「高校のときの仲間より大切な仲間なんて、これからできるのかなって」

六人が黙って聞いていた。

「でも、できました」

しょうぶは笑った。

「高校とは違う仲間ができました」

「それはよかったな」

「はい」

そして。

「今は、スポーツドリンクの会社で働いてます」

相澤先生が言う。

「お前らしいな」

「選手が試合中に飲むものを作る側です」

しょうぶは体育館を見た。

「高校のとき、先生が言ってたじゃないですか」

佐々木先生を見る。

「『選手がコートに立つために、いろんな人が支えてる』って」

「……そんなこと言ったか?」

「言いました」

「覚えてないな」

「俺は覚えてます」

しょうぶが笑う。

「だから俺も、今度は支える側になりたかった」

そして。

「……夢、叶えましたよ」

佐々木先生は、静かに頷いた。

「お前なら、そうなると思ってたよ」

---

「次、俺」

ゆうとが手を挙げた。

「俺、先生になりました」

「……知ってる」

相澤先生が笑う。

「今、中学校で働いてます」

「そうか」

「それで……」

少し照れくさそうに笑う。

「バスケ部の顧問もしてます」

佐々木先生が笑った。

「やっぱりな」

「高校のとき、先生たちを見てて」

ゆうとは二人を見る。

「俺もこんな先生になりたいって、ずっと思ってました」

「……」

「怒るだけじゃなくて」

「……」

「選手が失敗したとき、一緒に悩んで」

「……」

「頑張ってるときは、ちゃんと見てて」

「……」

「最後まで信じられる先生になりたいって」

ゆうとの目が少し潤む。

「まだ全然、先生たちみたいにはなれてないけど」

そして。

「今、夢の途中です」

佐々木先生が笑った。

「それでいい」

「……はい」

「教師は、完成したら終わりだ」

「え?」

「毎年、生徒から教えてもらうんだよ」

ゆうとが涙を拭った。

「……はい」

---

「俺も」

れいが前に出た。

「大学、工学系に行きました」

「聞いてる」

「今は、スポーツシューズの開発に関わってます」

相澤先生が笑った。

「お前らしいな」

「高校のとき、俺は守ることしかできなかったから」

れいが少し笑う。

「だから今度は、シューズで選手を守りたいと思って」

「……」

「踏ん張るときに、ちゃんと踏ん張れる」

「……」

「守るときに、ちゃんと守れる」

「……」

「そういうシューズを作りたい」

れいは先生を見る。

「まだ完成してないです」

そして。

「でも、いつか絶対作ります」

相澤先生が頷いた。

「楽しみにしてる」

「はい」

---

最後に。

たくやが前に出た。

「俺は……」

いつものように笑おうとした。

でも。

今日は、笑えなかった。

「整骨院で働いてます」

「うん」

「高校のとき、試合に出る時間はそんなに多くなかったから」

少しだけ俯く。

「その分、身体のことを勉強しました」

「……」

「ストレッチとか、身体のケアとか」

そして。

「今は、選手の身体を支える仕事をしています」

たくやは顔を上げた。

「試合に出てる選手だけじゃなくて」

「……」

「試合に出られない選手も」

「……」

「怪我してる選手も」

「……」

「もう一回コートに立ちたいって思ってる選手も」

声が少し震える。

「全員を支えられる人になりたいです」

そして。

「……俺も、夢を叶えましたよ」

相澤先生が笑った。

「うん」

「先生……」

「ちゃんと叶えてるじゃないか」

その一言で。

たくやの目から、涙が落ちた。

「……はい」

---

六人の報告が終わった。

体育館に、静かな時間が流れる。

佐々木先生が六人を見る。

「……なあ」

「はい」

「お前ら」

少し笑う。

「全員、バスケから離れてないんだな」

六人は顔を見合わせた。

「……そうですね」

るいが答える。

「結局、好きなんですよ」

りょうたが言う。

「バスケが」

しょうぶが笑う。

「俺たち、バスケしか知らないからな」

ゆうとが続ける。

「でも」

れいが言った。

「それでよかったと思ってます」

たくやが笑った。

「俺も」

---

そのとき。

体育館の外から、大きな声が聞こえた。

「お願いします!」

六人が振り返る。

そこには、今のチームの選手たちがいた。

佐々木先生と相澤先生が指導しているチーム。

男子も女子も。

全国大会優勝を目指しているチームだった。

「全国、狙ってるんですか?」

しょうぶが聞く。

佐々木先生が笑った。

「ああ」

「本気で?」

「本気だ」

相澤先生も笑う。

「男子も女子も、今年は全国優勝を狙ってる」

「……すげえ」

六人はコートを見る。

そこには。

高校時代の自分たちと同じような顔をした選手たちがいた。

必死にボールを追って。

声を出して。

転んでも立ち上がって。

仲間を励まして。

るいは、少しだけ笑った。

「……俺たちも、何かできませんか?」

佐々木先生が振り返った。

「何?」

「応援とか」

「それだけじゃなくて」

りょうたが続ける。

「会社としても」

しょうぶが言う。

「俺の会社からも」

たくやも笑った。

「身体のサポートならできます」

れいが続く。

「シューズも」

ゆうとが笑う。

「俺は……選手たちに声かけるくらいしかできないけど」

佐々木先生は六人を見つめた。

そして。

笑った。

「……お前ら」

「はい」

「本当に、先生の教え子か?」

「え?」

「お節介なところまで昔のままだな」

全員が笑った。

---

そして。

数か月後。

全国大会。

男子部門。

女子部門。

どちらも決勝まで勝ち上がった。

六人も会場にいた。

るいの会社は、チームのスポーツ用品を支援した。

しょうぶの会社は、選手たちをスポーツドリンクで支えた。

れいは、開発に関わったシューズを選手たちへ届けた。

たくやは、身体のケアを担当した。

ゆうとは、教員として、そしてかつての教え子として応援席にいた。

りょうたは、るいの隣に座っていた。

「……なんか不思議だな」

「何が?」

「高校のとき、俺たちが見てた全国大会を」

「今は、支える側で見てる」

「うん」

るいはコートを見た。

「先生たちのチームを」

---

試合終了。

男子。

優勝。

女子。

優勝。

両方とも全国大会優勝。

体育館中に歓声が響いた。

佐々木先生が泣いていた。

相澤先生も泣いていた。

選手たちが抱き合う。

そして。

六人も立ち上がった。

「先生ー!」

るいが叫んだ。

佐々木先生が振り向く。

六人が笑っている。

泣いている。

手を叩いている。

その顔を見た瞬間。

佐々木先生は、また泣いた。

---

表彰式が終わったあと。

先生たちが六人のところへ来た。

「お前ら」

佐々木先生が言う。

「ありがとう」

「俺たち何もしてないですよ」

「いや」

佐々木先生は首を振った。

「お前らがいたからだ」

「……」

「このチームが全国で優勝したことも嬉しい」

「……」

「でもな」

先生は六人を見る。

「俺は今日、お前らを見てた」

六人が黙る。

「高校卒業したときは、こんな未来になるなんて思わなかった」

「……」

「それぞれ違う道に進んで」

「……」

「でも、結局みんなスポーツのところに戻ってきた」

佐々木先生の声が震える。

「お前らは、あの日の負けを無駄にしなかったんだな」

るいの目に涙が浮かんだ。

「……先生」

「なんだ」

「俺たち」

るいは笑った。

「ちゃんと、あの日の続きに来られました」

佐々木先生は、何も言えなかった。

ただ。

六人を順番に見た。

そして。

「……そうだな」

小さく笑った。

「お前らの青春は、終わってなかったんだな」

---

その言葉を聞いて。

六人は、高校最後の試合を思い出した。

県大会ベスト8。

しょうぶが足をつった。

りょうたが足を痛めた。

前日に怪我をしていたるい。

それでも最後まで戦った。

負けた。

泣いた。

先生の前で。

家族の前で。

仲間の前で。

あの日は。

何もかも終わったと思っていた。

もう六人でコートに立つことはない。

もう一緒に練習することもない。

もう、あの時間には戻れない。

そう思っていた。

でも。

違った。

るいはスポーツを支える仕事をしている。

りょうたも同じ会社で働いている。

しょうぶは選手を支える飲料を作っている。

ゆうとは次の世代を育てている。

れいは選手を守るシューズを作ろうとしている。

たくやは選手の身体を支えている。

そして。

六人が支えたチームが。

今日。

全国の頂点に立った。

---

相澤先生が六人の前に立った。

「お前ら」

「はい」

「高校のとき、言ったよな」

「……何をですか?」

「『お前らは、自分たちが思ってるよりずっとすごい』って」

六人が頷く。

「今なら、もっと言える」

相澤先生は笑った。

「お前らは、あの頃よりずっとすごい」

「……」

「だって」

先生は優しく言った。

「自分たちがもらったものを、今度は誰かに渡してるじゃないか」

その言葉に。

誰も返事ができなかった。

六人とも泣いていた。

---

最後に。

るいが言った。

「先生」

「ん?」

「ありがとうございました」

「……」

「俺たちに、バスケを教えてくれて」

りょうたが続く。

「仲間の大切さを教えてくれて」

しょうぶが言う。

「負けても、前を向くことを教えてくれて」

ゆうとが言う。

「人を支えることを教えてくれて」

れいが言う。

「自分の言葉を大切にすることを教えてくれて」

たくやが言う。

「頑張ることは、誰かがちゃんと見てくれてるって教えてくれて」

六人が顔を見合わせた。

そして。

「ありがとうございました」

六人の声が重なった。

佐々木先生は俯いた。

肩が震えていた。

相澤先生も、目元を押さえた。

しばらくして。

佐々木先生が顔を上げた。

「……こちらこそ」

声が震えていた。

「ありがとう」

そして。

「お前らの先生になれて」

一度、言葉を止める。

「本当によかった」

六人の涙が、また溢れた。

---

帰り道。

六人は並んで歩いていた。

高校時代のように。

でも。

もう制服ではない。

それぞれ違う服。

それぞれ違う仕事。

それぞれ違う人生。

それでも。

歩く速度は、昔と同じだった。

「なあ」

しょうぶが言う。

「また集まろうぜ」

「当たり前だろ」

ゆうとが笑う。

「次はいつ?」

「一年後」

れいが言う。

「じゃあ、来年もここで」

たくやが言った。

「約束な」

六人が手を重ねる。

高校最後の日と同じように。

「せーの」

「またな」

手を離す。

それぞれの道へ歩き出す。

---

夜。

るいは一人で家に帰った。

鞄を置いて。

窓を開ける。

夜空を見上げる。

ふと。

高校最後の体育館を思い出した。

負けた日のこと。

泣いたこと。

先生の言葉。

家族の温かさ。

六人で笑ったこと。

そして。

今日。

先生たちの全国優勝を見届けたこと。

るいは小さく笑った。

「……先生」

誰もいない部屋で呟く。

「俺たち」

少しだけ目を閉じる。

「ちゃんと、頑張ってますよ」

---

あの日。

六人は、県大会ベスト8で終わった。

全国には届かなかった。

優勝もできなかった。

最後の試合で、悔しくて泣いた。

あの涙は。

負けた証だった。

でも。

今なら分かる。

あの涙は。

終わりの涙じゃなかった。

始まりの涙だった。

あの日、六人が悔しくて流した涙が。

それぞれの未来を動かして。

誰かを支える力になって。

次の世代へ繋がって。

そして今日。

先生たちのチームが、日本一になった。

六人は、その瞬間を支える側にいた。

高校時代には想像もできなかった未来。

でも。

確かに。

あの日の続きだった。

---

青春は。

卒業した瞬間に終わるものじゃない。

一緒に汗を流した時間も。

悔しくて泣いた日も。

先生に怒られた日も。

仲間と笑った日も。

全部。

その後の人生に残っていく。

そして。

誰かからもらったものを。

今度は、自分が誰かに渡していく。

それが。

六人が過ごした三年間の意味だった。

県大会ベスト8。

それだけを見れば。

優勝には届かなかった。

でも。

六人が残したものは。

それだけじゃなかった。

先生たちに残したもの。

家族に残したもの。

後輩たちに残したもの。

そして。

これから先、六人が出会う人たちに渡していくもの。

それは。

ずっと続いていく。

---

最後の夜。

六人のグループLINEに、一枚の写真が送られてきた。

今日の全国優勝の写真。

佐々木先生と相澤先生。

そして。

優勝した選手たち。

その写真の下に。

佐々木先生から一言。

『お前らがいたから、今日がある。』

少しして。

相澤先生から。

『これからも、それぞれの場所で頑張れ。』

そして最後に。

『またいつか、六人で来い。』

六人は画面を見つめた。

誰もすぐには返信しなかった。

やがて。

るいが送った。

『はい。』

りょうた。

『必ず。』

しょうぶ。

『また会いましょう。』

ゆうと。

『次は俺たちが、誰かの力になります。』

れい。

『約束します。』

たくや。

『先生たちも、ずっと元気でいてください。』

既読が六つついた。

その夜。

六人は、それぞれの場所で空を見上げた。

同じ空だった。

高校時代。

六人が体育館の窓から見上げていた空と。

何も変わらない空。

変わったのは。

六人の人生だった。

でも。

変わらないものもあった。

仲間を思う気持ち。

バスケットボールが好きだという気持ち。

そして。

あの日々を、一生忘れないということ。

---

**あのとき、負けたから。**

悔しくて。

泣いて。

それでも前を向いたから。

六人は、それぞれの夢を見つけた。

そして。

その夢は。

誰かを支える夢になった。

誰かの背中を押す夢になった。

誰かの未来を守る夢になった。

高校最後の試合で流した涙は。

決して、無駄じゃなかった。

あの涙が。

今日という日に繋がっていた。

---

県大会ベスト8。

それが。

六人の高校バスケの最後の結果だった。

だけど。

六人の物語は。

そこで終わらなかった。

むしろ。

そこから始まった。

六人がそれぞれの場所で歩き。

誰かを支え。

誰かに支えられ。

また誰かの夢を繋いでいく。

そしていつか。

今日の選手たちが大人になったとき。

きっとまた。

誰かに言うのだろう。

「俺たちにも、昔、こんな先生がいたんだ」

「こんな仲間がいたんだ」

「こんな青春があったんだ」

と。

その言葉が。

また次の誰かへ繋がっていく。

そうやって。

青春は。

終わらない。

---

**六人の青春は、あの日の敗戦で終わったんじゃない。**

**あの日、涙を流したところから。**

**それぞれの人生の中で、ずっと続いていた。**

そして。

これからも。

ずっと。

**――完。**
< 9 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop