婚約者の溺愛が重すぎて、普通の恋ができません!
私が頭の中で必死に現実を否定している間にも、その男は何食わぬ顔で人事部長の隣まで歩いていく。
社員たちから向けられる好奇の視線など気にする様子もなく、昔から何度も見てきた涼しい顔のまま周囲を見渡していた。
そして、その視線が私を捉えた瞬間、ほんのわずかに目元が和らいだのを見て、私の全身からは血の気が引いていく。
「本日付で専属産業医として着任しました、高槻京志郎です」
落ち着いた低い声がフロアに響き、周囲から小さなざわめきが起こる。
そんななか、京志郎の視線は、一度たりとも私から逸らされなかった。
――逃げ切ったと思っていた私の前に、悪夢が現れたのだった。