君のとなり〜拓実との未来〜

第1章 新しい春、君のとなり

拓実の胸に飛び込んだ、あの春。

私は思っていた。

これから先も、ずっと拓実のとなりにいられる。

高校生だった私たちは、たくさん笑って、たくさん泣いて。
嬉しいことも、苦しいことも、一緒に乗り越えてきた。

だから、これから先もきっと大丈夫。

そう、思っていた。

私は、拓実とは違う大学で英語を学ぶことにした。

モデルの仕事が増えたら、いつか英語が必要になるかもしれない。

もしモデルとして思うように売れなかったとしても、英語を身につけておけば、きっと他の仕事にも役立つ。

どんな未来になっても、自分の可能性を狭めたくなかった。

だから、自分で選んだ。

新しい大学。

新しい生活。

新しい未来。

そこには、拓実もいる。

そう思うだけで、胸がいっぱいになった。

大学生になったら、今までよりもっと会える。

高校生の頃みたいに、会いたいのに会えない日ばかりじゃない。

そんなふうに思っていた。

――このときの私は、まだ知らなかった。

好きな人と同じ未来を思い描くことと、
その未来を一緒につくっていくことは、少し違うのだということを。

*

入学式を終えた私は、拓実が働いているカフェへ向かった。

今日から、大学生。

高校を卒業して、私はこの春、関東で新しい生活を始めた。

まだ少しだけ、見慣れない街。

昨日までとは違う毎日が、今日から始まる。

カフェのドアを開けると、聞き慣れた声がした。

「いらっしゃいませ」

顔を上げた拓実と目が合う。

一瞬、拓実の目が少しだけ見開かれた。

「……瑠夏?」

「うん」

「入学式、終わったんだ」

「終わったよ」

拓実は私のスーツ姿を見て、ふっと笑った。

「似合ってる」

「ほんと?」

「うん。大学生って感じ」

「なんか照れるな」

そう言うと、拓実が少し笑った。

私は窓際の席に座る。

拓実のバイトが終わるまで、ここで待つことにした。

少しして、拓実が私のテーブルまで来た。

「引っ越しの荷物、片付いた?」

「うーん……もうちょっと」

「まだそんなに残ってる?」

「段ボールが何個か」

「そっか」

拓実は少し考えるようにしてから、

「困ったことがあったら言って。手伝うから」

「ありがとう」

その一言が、嬉しかった。

家族と離れて始めた、新しい生活。

まだ慣れないことも多いけれど、拓実が近くにいると思うだけで心強かった。

「ミルクティーあるよ?」

拓実がそう言って、私を見る。

「……じゃあ、それ」

「了解」

拓実がカウンターへ戻っていく。

私はその背中を目で追った。

広い肩。

すっと伸びた背中。

高校生の頃から知っているはずなのに。

大学生になった今見ると、少しだけ違って見える。

……やっぱり、拓実の背中、好きだな。

ぼんやり見ているうちに、ふと思った。

後ろから、ぎゅっと抱きつきたい。

……え。

自分で想像して、顔が熱くなる。

なに考えてるの、私。

慌てて視線を逸らした。

しばらくして、拓実がミルクティーを持って戻ってくる。

「はい」

「ありがとう」

カップを両手で包む。

あたたかい。

……まだ、顔が熱い。

「……瑠夏?」

「ん?」

「顔、赤くない?」

「えっ」

私は思わず頬に手を当てた。

やっぱり熱い。

どうしよう。

「……ミルクティーがあったかいから」

「え?」

「ほら、これ」

私は慌ててカップを見せる。

「だから、ちょっと顔が赤くなっただけ」

拓実はミルクティーと私の顔を交互に見て、それから小さく笑った。

「……そっか」

「うん」

「じゃあ、冷めたら治るな」

「……たぶん」

拓実は何も言わずに笑って、また仕事へ戻っていった。

私はミルクティーを一口飲む。

絶対、信じてない。

そう思うと、また頬が熱くなった。

時計の針が六時を回る。

「お待たせ」

仕事を終えた拓実が、私のところへ来た。

「お疲れさま」

「待った?」

「大丈夫」

「じゃあ、晩ごはん食べて帰ろうか」

「うん」

カフェを出る。

春の夕方の空気は、まだ少し冷たかった。

歩き始めてすぐ、拓実の手が私の手に触れる。

そのまま、指が絡んだ。

繋いだ手があたたかい。

「明日、何限から?」

「私は二限から。拓実は?」

「俺は一限」

「じゃあ、早起きだね」

「瑠夏は少しゆっくりできるな」

「うん」

他愛のない話をしながら歩く。

明日の授業。

拓実のバイト。

私の大学。

これから始まる、それぞれの新しい毎日。

高校生だった頃とは、少しずつ変わっていく。

それでも。

こうして手を繋いで歩けることが、嬉しかった。

「明日、大学終わったら連絡するね」

「うん。待ってる」

春の夕暮れの中。

私たちは手を繋いだまま、ゆっくり歩いていった。
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