海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜
「むしろ、この前の酒盛りのほうがハッピーそうでしたね」

思い出したら、なんだか可笑しくなってしまった。

「あのデザイン、どこかで使いたいな」

そう言って笑っていると――。

「七海さん」

「はい?」

ふいに名前を呼ばれた。次の瞬間、時透社長の手が伸びてくる。

「え?」

何をするつもりなのかわからず、身体が固まった。けれど、その手は私の頬に触れる寸前で、ぴたりと止まる。

「どうしました?」

「なんか、触れたくなった」

「えっ!?」

あまりにも真っ直ぐに言われて、思わず声が裏返る。

「な、なんでですか?」

時透社長は少しも動揺した様子を見せない。

「なんか可愛いなと思って」

「え」

「笑ってる顔」

無表情のまま、淡々と言われる。なんなの、この人。最近、社長のことが少しわかってきたような気がしていた。怖そうに見えて、実はそうでもない。言葉は冷たいのに、してくれることは優しい。でもこの状況は予想の斜め上どころの話ではない。

「社長、昨日は何時間睡眠をとりました? あと今日ご飯食べました?」

その言葉に遠くを見つめる。

「四時間…は寝た。ご飯は食べてないな」

「昨日の夜は?」

「夕飯なら、サラダだけだ」

思わず絶句する。

「それ、全然足りてないですよ」

「そうか?」

「カロリーが足りてないと、脳もちゃんと働かないですよ」

「それもそうだな」

私は小さく息を吐いた。

「何か作ってもいいですか? お口に合うかわかりませんけど」

「いいのか?」

「はい。その代わり、社長は少し仮眠してください」

「仮眠?」

「そうです。少し寝て、ちゃんとご飯を食べてください」

そして、私はもう一度デザイン画を見る。

「そうしたら、酒盛り以外にも、もっと楽しい案が浮かぶかもしれませんよ」

そう言うと、時透社長がふっと笑った。

「そうだな」

その笑顔に、思わず目を奪われる。いつもは冷たい印象の整った顔が、ほんの少し緩んでいる。ずるい。そんな顔されたら。心臓が、少しだけ大きく跳ねた。
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